Close to you 【番外編】


  • 一之瀬総司は成田空港に着くとすぐに古都子に電話をした。
    しばらくコールをするが、古都子は出ない。

    今日帰ることは当然知っている。
    総司が帰ってくるのを古都子は心待ちにしているはずなのだが、どこかへ出掛けてしまったのだろうか。

    総司は携帯電話をスーツのポケットにしまうと駐車場に向かった。

    専務になってからも相変わらず総司は海外に出向いていた。

    総司じゃないと話をしないという客が多いこともあったが、総司自身、重要だと思える商談は自ら率先して
    出向かずにはいられなかったのである。

    仕事自体は何ら変わってないように思えるが、実際の総司の心境は以前と全く違っていた。

    今回はたった三日の英国滞在だったが、その間、古都子に会えないことが思った以上に辛かったのである。

    婚約してすぐ、古都子は総司のマンションへ引っ越してきた。

    入籍もしていないのにと反対する周囲の声には全く耳を貸さなかった。すぐにでも古都子と一緒に
    暮らしたかった。

    一緒に暮らしてから初めての海外出張で、総司は時間があれば古都子に電話をした。

    愛してる・・・。早く君に会いたい・・・。

    古都子は恥ずかしそうに私も・・・と答える。

    そんな古都子の声を聞くと、今すぐにでも古都子のうなじに唇を這わせ、耳たぶに噛みつきたい衝動に
    駆られるのだった。

    さすがに仕事の最中に上の空になることはなかったが、ホテルの部屋に戻ると途端に古都子が恋しくなる。

    こんな気持ちになるのは初めてだった。

    いつだって総司にとって女性とは多忙な日々の気晴らしに過ぎなかったし、生活の上位を占めることなど
    なかった。

    しかし、古都子に関してはそれらが全て逆転してしまったのではないかと思うほどだった。

    古都子とゆっくり過ごすために、仕事を能率良く進めようと考えるようになったし、
    古都子が快適な生活を送れるように努めようと思えるのだった。

    古都子はいつも部屋を綺麗に掃除し、温かくバランスの取れた食事を用意してくれる。
    古都子と暮らし初めてから、総司はそれまで毎日のようにしていた外食をやめた。
    家に帰って古都子とゆっくり食事するのが何よりの楽しみだったからだ。

    そして一緒に風呂に入り、ベッドルームでとことん古都子を味わい尽くす・・・。

    そんな甘い日々から三日も遠ざかってしまった。

    総司は早く家に帰ろうと車を走らせた。

    「おかえりなさい」

    マンションに着くと、ずっと見たかった古都子の笑顔をすぐに見ることが出来た。

    「ただいま」

    総司は古都子の腰に手をまわし、引き寄せると、身を屈めてキスをした。
    舌を差し込み、甘く痺れるような古都子の舌を味わう。

    「んン・・・っ!そ、総司さん、待って・・・・!」

    古都子は焦って総司から離れようとするが、総司は古都子を離さなかった。

    「もうじゅうぶん待ったよ。君だってそうだろ?」

    そう言ってもう一度キスしようとした時だった。

    「なーにをしとる!さっさと着替えんか!」

    大きな声にハッとして古都子の背後に視線を移す。

    「お祖母さん・・・」

    総司の祖母のタエが古都子の後ろで仁王立ちしていた。

    「お祖母様が先ほどいらして・・・」

    古都子が申し訳なさそうに言った。
    総司は内心大きなため息をついた。

    どうしてこういう時に訪ねてくるのだろう・・・。
    総司の身体は古都子を求め、今すぐにでも押し倒したい欲望でいっぱいなのだ。

    しかし、それを露骨に顔に出すわけにもいかない。
    総司はにっこり笑って祖母のもとへ向かった。

    「結納の時はお世話になりました。早速遊びに来ていただいて嬉しいです」

    総司の作り笑いを見ると、タエはジロ・・・と睨んだ。

    「なーにが『嬉しい』じゃ。迷惑そうな顔しおってからに」
    「あの、お祖母様に今お料理を教えていただいてるところなんです」

    古都子がにこやかに笑って仲介に入った。

    「それはわざわざありがとうございます。古都子は料理が得意ですから、お祖母さんも教え甲斐が
    あるでしょうね」

    タエはフン!と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

    「一之瀬の嫁としてはあたりまえじゃ。まだまだ足りん。これからもっと覚えてもらわにゃ」
    「はい、頑張ります。総司さん、寝室に着替え出してありますから」

    古都子は恭しく返事をしてキッチンへと戻っていった。

    総司は古都子も自分と同様に会いたい気持ちが募っているとばかり思っていただけに、古都子の
    よそよそしい態度に少なからず寂しさを覚えていた。

    とはいえ、この祖母がいる間は仕方ない。

    「・・・しかし、お祖母さん、今日はもう遅いですよ。そろそろお帰りになったほうが
    よろしいのでは?タクシー呼びましょうか?」

    総司はやんわりと帰るように促した。

    「今日は帰らん」
    「え?」
    「今日はここに泊まる」
    「泊まる・・・?」

    総司は思わず顔をしかめて、露骨に嫌そうな顔をした。
    その顔を見てタエがニヤリと笑う。

    「なーんじゃ、その顔は。わしが泊まって何か文句あるか」

    総司がこうやって心情を露にするのはタエと古都子ぐらいのものである。
    タエはそれを見てさも嬉しそうに笑った。

    総司をいじめて楽しんでいるのである。

    タエはしっしっし!と奇妙な笑い声を上げてキッチンへ入っていった。


    総司は深くため息をついた。
    古都子をすぐにでも抱くという欲求はしばらく叶えられそうにない。

    タエと古都子の絆を深める邪魔をしたくはない気持ちも当然ある。
    総司は諦めて着替えるために寝室に入った。

    綺麗に整頓された部屋。いつも雑誌やら本が積み上げられているサイドテーブルは綺麗に片付き、
    総司と古都子の二人の写真が飾られていた。

    枕元には総司の写真が置かれている。

    総司は一人微笑んだ。総司の写真を抱きしめながら眠っていると言っていた古都子の台詞は本当の
    ようだった。
    とたんに愛しさが込み上げる。

    タエが泊まっていようとも関係ない。今夜古都子を思う存分味わおう・・・。

    そう期待した総司だったが、それはいとも簡単に覆された。

    三人での食事を終えると、タエが切り出した。

    「古都子、今日はワシと和室で寝るぞ」

    古都子は素直にはい、と返事をしている。
    総司は内心、冗談じゃないと訴えたが、タエがジロ・・・と総司の顔を見るので、
    すかさずにっこりと笑って言った。

    「そうですね。それがいいと思いますよ」

    タエはニヤリ・・・と意味ありげな笑みを浮かべた。

    古都子と一緒に片付けをし、古都子と一緒に風呂に入り、古都子と布団を並べて寝る・・・。
    タエの行動は、総司と古都子をわざと二人きりにさせないようにしているとしか思えなかった。

    古都子はタエのご機嫌取りに必死だ。

    もちろん、古都子にしてみたら総司の祖母だからこそ丁重に扱っているわけで、総司を想っての
    行動なのだが、二人きりになりたいと思っているのは自分だけのように思えてならなかった。

    今日はもう諦めよう。明日、ゆっくり二人で過ごせばいいのだ。
    総司は大人しく寝室で一人横になった。

    古都子の話し声や笑い声がかすかに聞こえてくる。
    海外での離れ離れの日々となんら変わりはない。むしろずっと酷なことのように思える。総司はため息を
    ついた。

    早く時が過ぎるのを待つしかない・・・。

    そう思う総司を裏切るように、タエは結局その次の日も、次の日も総司の家に居座るのだった。

    「あのバアさん、いつまでいるつもりなんだ・・・」

    タエが来てから四日目の朝、総司はげんなりした表情で呟いた。
    寝室で古都子が総司のネクタイを締めてくれる。

    「そんなこと言わないで。いろいろ教えてくださって助かっているのよ」

    古都子はずいぶんとタエと仲良くなったようだった。
    タエは一族の中でも、扱いづらいことで有名だった。祖父のいなくなった今、一之瀬の裏の権力者と
    言っても過言ではない。

    姉たちの結婚の時は散々結婚相手に文句をつけて姉たちを困らせたし、総司の従兄弟にあたる孫たちが
    結婚する際にも、嫁の選別に誰より厳しかった。
    今でも厳しく彼女なりの’躾’が行われているのだった。

    そんなタエが古都子に関してはとても気に入っているようだった。
    タエのお墨付きが貰えたというだけで、古都子を選んで間違いなかったと思えるほどだった。
    なんだかんだ言って、結局自分もタエの影響を大きく受けているのだと総司は思っていた。

    しかし、いくら古都子が気に入ったと言っても、この’長期’滞在は、やりすぎだと総司はほとほと
    参っていた。
    もう一週間以上古都子を抱いていない。

    古都子のせつなげな吐息を聞きたい。
    古都子の欲望に潤んだ瞳が見たい。
    古都子に愛してると言わせたい・・・。

    総司は古都子がネクタイを締め終わるのを待って、古都子の身体を引き寄せた。

    深く古都子の唇にキスする。
    古都子の舌に舌をねっとりと絡ませる。

    「んぅ・・・っ」

    古都子の熱い口内を舌で探っていると、抑えていた欲望が顔を出し、どんどん膨れ上がってくる。

    チュ・・・チュ・・・・

    「総司さ・・・んん・・・・っ!」

    身を引こうとする古都子の身体を強引に引き寄せて、唇をむさぼる。
    最初は抵抗していた古都子も、しだいに力を抜き、総司の舌に舌をからませ始める。
    二人で夢中になってキスした。

    しかし、すぐ隣の部屋にはタエがいる。何よりもう出社の時間が迫っているのだ。

    「だめよ・・・そろそろ行かないと・・・」
    「俺はもう限界だよ」
    「・・・・・」

    総司の両手が古都子の小さいお尻を鷲づかみ、優しく揉んでいる。
    総司は古都子のスカートをたくし上げ、指をそのまま古都子の割れ目へと移動させる。

    ショーツの脇から指を入れると、そこはしっとりと濡れていた。

    クチュ・・・

    「・・・・!だめ、だめよ・・・」

    古都子は総司から離れようとした。総司が古都子の耳元で囁く。

    「だめ?こんなに濡れてるのに?」
    「だって・・・。あ・・・・っ!」

    総司の指がヌヌ・・・と奥まで入り込んだ。
    ネットリと愛液がからみつき、キュゥ・・・と締め付けられる。

    グニグニ・・・と総司が古都子の中をかき回す。

    古都子は唇を噛み、身体をふるふると震わせている。

    古都子もずっと我慢していたのだ。それが伝わってきて、総司はこっそり微笑んだ。
    ぜひその想いを言葉にして欲しい。

    「君は我慢できるの?」

    古都子は頬を赤らめて小さく首を振った。

    総司の指がニュプニュプと出入りする。

    「んっ・・・!」

    古都子がブル・・・とわずかに震えた時だった。

    「古都子ーーッ!」

    タエの大声が聞こえる。

    二人はハッとして、慌てて体を離した。

    古都子は急いで身なりを整えて部屋を出ていく。

    総司は自分の体に残る古都子の香りを楽しんだ。
    古都子も自分を欲していること感じて微笑んだ。

    タエが帰ったら、思う存分古都子を味わおう。

    総司はスーツの上着を着て会社へ向かった。

    総司は日本酒を二本手にして家路についた。
    ニューヨークのレストランに新しく置く日本酒の試飲として譲り受けたものだ。

    タエは日本酒を好んで飲むので、今日はこれで三人で晩酌しようと思っていた。

    「ただいま」
    「おかえりなさい。あら、それは?」

    総司の持つ日本酒を見て古都子が尋ねた。

    「もらったんだ。三人で飲もう」
    「お祖母さまなら今日のお昼に帰られました」
    「帰った?」

    総司は少し驚いて言った。まだまだ居座りそうな勢いだったタエが、こうあっさりと
    帰るとは思っていなかった。

    「そう・・・。じゃあ、二人で飲もう」
    「はい」

    総司から日本酒を受け取り微笑む。いつもの古都子の笑顔だった。
    久しぶりに二人きりになれて嬉しいという雰囲気が伝わってくる。

    総司は着替えてキッチンに立つ古都子の隣に立った。
    紺色のノースリーブのワンピースに白いエプロンが良く映える。
    髪をアップにしていて、きれいなうなじが見える。

    「今日は何?」
    「ビーフシチューなんだけど、日本酒に合うかしら?」
    「この日本酒はコクのあるやつだから、肉料理に合うよ」

    総司はそう言って少しグラスに注いで口に含んだ。
    フルーティな香りが漂う。質のいい日本酒だった。

    「うん。うまい」

    そう言って手がふさがっている古都子の口にグラスを近づける。
    古都子はそっとグラスに口つけた。

    「どう?」
    「確かにこれならお肉に合いそう。けど、女性にはちょっと重たいかも」

    古都子の唇が酒で濡れている。古都子は舌でそれをぺロ・・・と舐めた。
    古都子のピンク色の舌が見えて、総司はたまらず古都子の体を引き寄せた。

    古都子の唇で味わう日本酒はもっと美味だろう。

    「総司さ・・・」

    総司は深く古都子にキスした。
    日本酒の香りと、古都子の生暖かい舌の感触が合わさり、まさに珠玉の味わいだった。

    「ん・・・・」

    古都子は総司の首に腕をまわし、抱きついた。
    古都子もずっと待っていたのだ。

    ゆっくりとしたキスは次第に激しくなり、古都子は息を荒くしてあえいだ。

    「は・・・んん・・・・!んぅ・・・・!!」

    古都子の腰をしっかり掴んでいた総司の手は古都子の両方の胸へと移動し、荒々しく
    揉みしだく。

    古都子の両方の乳首は既に硬くなっていて、総司の手のひらにそれが伝わってくる。
    焦らしたいのだが、その二つを弄びたい欲求は強く、総司はワンピースの袖口から
    手を差し込み、ストラップレスのブラのホックを外すと、器用にブラを袖口から引き抜いた。

    ワンピースの上から硬くなった乳首を摘む。

    はぁ・・・と古都子が艶めいた声とともに息を吐く。

    コリコリ・・・・

    古都子は堪らないといった様子で、総司に体を押し付ける。

    「あ・・・ん・・・・んん・・・・っ!」

    さあ、これから古都子を裸にして・・・と、一気に進めてしまいところを、総司は
    敢えて我慢した。

    古都子の体をス・・・と離す。
    古都子は驚いた顔をして、呆然と総司を見上げた。

    「さぁ、食事にしよう」

    総司はそう言うと日本酒をテーブルに運んだ。

    タエとばかり仲良くして、自分をほっておいた古都子を少しこらしめてやろうと総司は思っていた。
    ちょっとした仕返しである。

    古都子は戸惑いながらも、食事の支度をして、ようやく二人で久しぶりのディナーが
    始まった。

    古都子が焼いたというパンも、シチューも、タエが買ってくれたというマグロのカルパッチョも、
    日本酒も全てが美味しかった。

    そして何より、ノーブラで、自分の隣で食事をしている古都子がいることがこの上なく嬉しかった。

    先ほどの愛撫はまだ古都子の身体に残っているようだった。乳首は浮き立ち、収まりそうにない。

    古都子は嬉しそうに総司に話しかける。
    久しぶりの二人での会話が弾む。

    日本酒を飲んでほんのり目のまわりをピンク色に染めて微笑む古都子はたまらなく魅力的だった。

    総司は食事を終え、ゆっくりと日本酒を堪能していた。

    そっと指先で古都子の浮きだった乳首を弾く。

    「!」

    古都子は話すのをやめて総司を見た。

    人差し指でひっかけるように古都子の右の乳首を弄る。

    古都子の身体が少し硬くなる。

    古都子の食事する手が止まっているのを見て、総司はそれを指摘した。

    「食事を続けて」

    古都子は、食事を早く済ませて、寝室へ行こうと言われたのだと思ったようで、
    食べるスピードを速めた。

    しかし、総司としては、食事をしている古都子の身体を弄びたいという意味で言ったのだった。

    今度は親指と中指で挟み、クリクリ・・・と摘み、転がす。

    「ぁ・・・・!」

    古都子は小さく声を上げた。

    総司は古都子の赤くなった耳たぶに噛み付く。
    古都子の耳たぶから香水の甘い香りが漂い、舌に触れる耳たぶの柔らかい感触とともに
    総司の官能を刺激する。

    総司の手が古都子の太ももを撫で始めると、古都子の手は完全に止まり、口からは喘ぎ声が漏れ始めた。

    「総司さん・・・」
    「食事を続けなきゃ、だろ?」
    「・・・・・」

    ようやく、古都子もこれが総司の仕返しなのだと気がついたようだった。

    総司をギロ・・・と睨む。

    潤んだ瞳でそうやって睨むことが、よりいっそう興奮を高めるのだということを
    知っていてやっているのだろうか?

    総司は軽く微笑んで、ムキになって食事を続けようとする古都子の内モモを
    愛撫した。

    つつ・・・と上へ指を移動させる。
    柔らかく膨らんだ部分へ指をフニ・・・と沈めると、古都子の身体がピクリと
    反応した。

    古都子は足を閉じて総司の愛撫を阻止する。
    しかし、既に到達してしまった総司の指はおとなしくしているはずもなく、
    指先は古都子のふくらみを自由にいったりきたりするのだった。

    指先に少し硬くなったものが当たる。
    総司はニヤ、と笑ってそれを指先で弾く。

    古都子は更にぎゅ・・・!と足を閉じ、太ももで総司の手をはさんだ。
    太もものやわらかい感触が、総司の気持ちを更に上昇させる。

    総司はすかさずショーツの隙間から指を差し入れた。

    古都子のそこはヌルヌルと潤い、総司の指を濡らす。

    「・・・・・ッ!」


    ヌ・・・と奥まで差込み、第二関節でクイ・・・と指を曲げ、中を刺激すると、
    古都子が、ゴク・・・と喉を鳴らした。
    足の力が抜け、総司が弄りやすいようにわずかに開く。

    くちゅくちゅ・・・

    総司は、古都子にその卑猥な音が聞こえるよう、すばやく指を出し入れした。

    「あっ・・・・!」

    古都子の手から力が抜け、テーブルの上にカランと音を立ててフォークが落ちた。
    もはや食事どころではない。

    総司は指を引き抜くと、トロトロになった指の腹で、硬く勃起したクリトリスを転がし始める。

    ヌルヌルヌルヌル・・・・

    「あン!!あ、あ、あぁ・・・・ッッ!!」

    総司はこのまま古都子に絶頂を味合わせるか迷った。

    久しぶりに’アレ’が見たい・・・。

    「・・・・乗って」

    総司がそういうと、古都子は、ハァハァと息を乱しながら、立ち上がると、ワンピースとショーツを
    総司の目の前でゆっくりと脱いだ。
    美しい裸体が露になり、総司は目を細めた。
    自分もTシャツを脱ぎ、古都子を待つ。

    総司のジーンズのファスナーを下ろし、カチカチに硬くなっているペニスを取り出すと、総司の上に
    またがった。

    先端をヌルヌルと、愛液で濡らす。

    ヌ・・・ヌヌヌ・・・・

    「あぅ・・・・ッッ!」

    古都子は小さく呻いて、ゆっくりとペニスを根元まで挿入した。

    古都子の中は熱く、ねっとりと総司のペニスにまとわりつき、締め付けた。

    古都子はフルフルと身体を震わせている。快楽に歪んだ表情がたまらなくセクシーだった。
    総司が動いたらすぐにでもイッてしまいそうだった。

    総司は古都子にキスし、舌を強く吸った。
    古都子も舌を絡ませてくる。
    繋がったまま互いの舌をむさぼり合う。

    濃厚なキスに、古都子のアソコはきゅうきゅうと締まり、奥からはじわじわ愛液が溢れ出す。

    古都子が興奮していることがわかり、総司のペニスもググ・・・と強さを増す。

    ひとしきり唇を合わせると、総司は身を引いて言った。

    「あれ、見せて」
    「え・・・・・?あれって・・・。あれ?」
    「そう」

    古都子は恥ずかしそうにうつむいた。
    既に何度もやらせているのだが、古都子にとっては毎回恥ずかしいものらしかった。

    その恥ずかしそうな顔を見るのが総司の楽しみだった。

    古都子の左手がためらいがちに茂みへと伸びる。
    指でふくらみを左右に開くと、ピンク色のキレイなクリトリスの芯が顔を出した。

    それはヌルヌルに光り、ツンと尖っている。
    古都子は自分の愛液を右手の中指ですくうと、その指でピンク色の芯を弄び始めた。

    クリクリクリクリ・・・・ヌルヌルヌルヌル・・・・

    「あ・・・・ッ!あッ!あッ!あッ!あンッ!」

    古都子のキレイに整えられた桜色の爪が充血したピンク色のクリトリスの上を行き来し、
    その下では総司の硬く大きくなったペニスをミチ・・・と咥えている。

    その様を見ることが最近の総司のお気に入りだった。

    クリトリスで快楽を味わっている古都子の中は、総司のペニスをキュウキュウと何度も締め付ける。
    動いてしまいたくなるが、我慢して古都子の感じている姿を見つめる。

    「あッ・・・・!!総司さん・・・・私・・・・ッッ!」

    古都子の指の動きは加速し、アソコはヒクつき始めた。絶頂がそこまできているのだ。

    クリュクリュクリュクリュクリュ・・・・!

    「ああッ!もう・・・ッ!!だめ・・・・・ッッ!!」

    古都子は目をぎゅぅ・・・っと瞑ると、全身に力を入れ、縮こまった。
    瞬間、ガクガクガク!と身体が震え、声もなくエクスタシーを迎えた。

    「ハァ・・・・ッ!ハァ・・・・・ッ!」

    ぐったりと総司に寄りかかる。アソコがヒクヒクしている。

    総司は古都子のお尻を両手で鷲づかみにすると、前後にゆっくり動かし始めた。

    グチュ!グチュ!

    「あ・・・・!んぅ・・・・・!」

    総司は古都子の子宮口にぴったりとペニスの先端をあて、ぐりぐりとこするように腰を動かす。
    古都子は総司とセックスするようになって、感度が抜群に上がった。
    奥でのエクスタシーを覚え、何度も絶頂を迎えるようになった。

    溺れそうになるところを助けてくれという様に必死になって総司にしがみつく。

    総司の方も徐々に上りつめていく。
    ペニスに古都子の熱いヒダがねっとりとまとわりつき、あちこちを絞るように締め付ける。
    動かすたびにヒダがペニスをニュルニュルと刺激する。

    何よりもペニスの先端にあたる古都子の子宮口の感触が何とも形容しがたく気持ちが良かった。
    それはいつの時も総司をゾクゾクさせるものだった。

    ズリュッ!ズリュッッ!

    古都子の奥の奥へ入り込み、まさに溶け合うという表現そのままだった。

    「あッ!あッ!総司さん・・・・!!」

    古都子は総司にしがみつき、唇を探してキスした。
    舌をねっとりと絡ませあう。

    総司は久しぶりの古都子の中を時間をかけて味わおうと、スピードを速めたい気持ちを抑えて、
    古都子の腰を前後にゆっくり動かした。

    しかし、キスがどんどん激しくなるにつれ、古都子の腰の動きもスピードを増していく。
    古都子は自分から子宮口をグリグリと押し付けるように腰を動かした。

    久しぶりのセックスに、総司はこれ以上我慢していられそうにないと悟り、古都子の腰を
    掴むと、下からガシ!ガシ!と突き上げた。

    「ああッ!あンンッッ!!ンン〜〜〜ッッ!!」

    グッチュ!グッチュ!
    ズッポ!ズッポ!

    古都子の中がキュウキュウとペニスを締め付け始めた。
    お互いが絶頂の寸前だった。

    「総司さん・・・!ああ・・・・ッ!あああッッ!!あ〜〜〜〜〜ッッ!!」

    古都子は大きな声をあげると、雷に打たれたように身体を痙攣させた。
    エクスタシーを迎えた古都子の身体は総司がしっかり抱いてないと、床に倒れ込んで
    しまいそうなほどに激しく揺れた。

    古都子の体内の筋肉が全て萎縮したかのように総司のペニスを締め付ける。

    「・・・・・・っ!」

    総司は一瞬息を止め、目を瞑り、古都子をぎゅう・・・っと抱きしめた。

    二人して身体を縮め、強く抱き合う。

    ドクッ!ドク・・・ッ!ドク・・・・・

    古都子の中で全てを放った。

    「あ・・・・う・・・・・」

    古都子は呻いて脱力すると、やっと息ができるという風に、はぁはぁと全身で息をしている。

    総司もわずかに力を抜き、余韻に浸った。
    まだ古都子の中に入ったままのペニスがピクリと動く。

    総司は古都子の顔を上げさせ、深くキスした。
    絶頂を迎えた後の古都子の口内は熱く舌はトロけるように甘い。

    レロ・・・・チュ・・・・チュ・・・・

    古都子の立ったままの乳首が総司の裸の胸にツンと当たっている。
    まだ硬いままの乳首を両手の指で摘む。

    コリコリ・・・コリ・・・・

    「ん・・・・」

    古都子の唇から吐息が漏れる。

    総司のキスが激しくなり、このまま二回戦へ突入・・・という雰囲気を察知すると
    古都子は慌てて総司から離れた。

    「まって・・・!一度お風呂に・・・・」

    古都子の言葉に総司は笑った。

    「一度風呂に?もう終わりじゃなくて?」

    まだセックスしたいの?という総司の少し意地悪な表情を見て、古都子は耳まで赤くした。
    少し睨んだあと、再び照れた表情になり、総司の胸に額をつけた。

    「だって・・・久しぶりだから・・・」
    「久しぶりだから?」

    もうじゅうぶん古都子の気持ちは伝わっているが、それでもまだ意地悪をしたくなるのは
    古都子が愛しいからに他ならない。

    「たくさん・・・したい・・・」

    それは総司も同じ気持ちだった。
    総司の心に愛しい気持ちが溢れ、微笑んだ。

    「では・・・君の希望に応えて、一度お風呂に入って、たくさんしよう」

    総司はそう言うと、古都子を抱きかかえてバスルームへと向かったのだった。




    朝方まで何度も愛し合ったあと、二人は久しぶりに二人きりで眠った。

    古都子を抱きしめて眠ることがこんなに幸せだったかと総司は改めて気づかされた。

    そんな至福のひと時を打ち破るように、電話が鳴り響く。
    携帯電話ではなく、家の電話にかけてくるのは、親族の誰かか、限られた友人である。

    総司は無視しようと決めたが、鳴り止む気配はない。
    古都子が起きそうになったので、仕方なく出ることにした。

    「・・・・もしもし」
    「おい、お前結婚するんだって?」

    久しぶりに電話をかけてきたのは、近藤清太郎だった。
    強気な口調で、まくしたてるような話し方は、名乗らなくても清太郎だとわかる。

    近藤家は代々伝わる大地主で、清太郎の祖父は大手銀行の頭取を務める傍ら、
    不動産業を営んでおり、総司の祖父が会社を起こすときに資金援助をしてくれたのだった。

    当然のごとく、父の代、総司の代と付き合いは続いている。

    総司と清太郎は同級生だったから二人は幼い頃よく一緒に遊んだ。

    中学生になって、総司が東京にもどり、清太郎と同じ名門校に入学すると二人はお互い良き
    ライバルとしてしのぎを削った。
    働き初めてからは疎遠になっていたが、総司が結婚すると聞いて驚いて電話してきたのだった。

    「あぁ・・・。結婚することになったよ」
    「早く言えよなぁ。で、相手は?どこのご令嬢だよ」
    「普通の人だよ」

    総司は少し面倒くさそうに答えた。しかし、これは逆効果で、清太郎はしつこくどんな女性か
    聞いてくるのだった。

    「おい、一度会わせろよ。うちのも連れていくから一緒に食事でもどうだ?そうだ、今夜にしよう」

    そんなことまで言い出した。
    総司は冗談じゃないと相手には伝わらないことをいいことに顔をしかめた。

    「今夜は忙しいんだ。悪いが、またの機会に」
    「お前、そんなこと言って逃げるつもりだな?俺に紹介できないほどの女なのか?」

    古都子を馬鹿にされた気がして総司の心に嫌な感情が沸いてくる。
    清太郎がわざと挑発していることもわかっていた。

    古都子を紹介することが恥ずかしいわけがない。
    しかし、この男に会わせるのは気が進まなかった。

    古都子が電話の様子に気がつき、起き上がって総司のそばに寄ってきた。
    まだ眠たそうに目をごしごしとこすっている様が可愛らしい。

    総司は古都子の身体を引き寄せ、額にキスした。

    「・・・・遅くなるぞ」
    「こちらは何時でも」
    「また夜に」
    「連絡する?」
    「ああ」

    清太郎の挑発に乗ったわけではない。
    ただ、いずれ清太郎に会わせることにはなるだろうから、さっさと終わらせておく方が
    得策と考えたのだった。



    清太郎は昔から、仕事のことでも、趣味のことでも、恋人のことでも、総司の上をいって
    いないと気がすまないたちだった。

    総司としては、学生時代は同じ土俵で競い合うことは理解できても、卒業してもなお、
    別々の生活をしている者同士が何を競い合うのだと、清太郎の性格を若干引いた目線で
    みていた。

    清太郎は今現在は父親が代表となって経営する大手不動産会社に兄とともに従事している。

    おそらく今回も近藤一族の自慢話を最初から最後まで聞かされるだろう。

    それでも縁を切るわけにはいかない。
    祖父たちの代の恩義は現在も続いており、自分の都合で近藤家と縁を切ることは許されない。
    タエはもちろん、一之瀬の人間はみんな今なお続く近藤家との繋がりをありがたく思い、
    喜んでいるのだ。

    総司はうんざりした顔でため息をついた。

    「総司さん?」

    古都子が少し不安げに声をかける。
    あまりにうんざりした顔をしていたのかもしれない。

    「今夜、予定が入った。昔からの友人との食事だ。君にも来てほしい。相手も奥方を連れてくるから」
    「それはいいけど・・・。ずいぶん急なのね」
    「そういうやつなんだ」

    総司があまり話したがらないことを察して、古都子はそれ以上追求しなかった。
    わかりましたと頷いただけだった。

    古都子のこういった気遣いを総司はいつもありがたく思っていた。

    今まで出会った女性たちはだいたいが総司の全てを知りたがり、’そっとしておく’
    という配慮のできない女たちばかりだった。

    多くを語らないことは、女性たちをイライラさせるらしかった。全てを打ち明ける
    ことが愛情の証だと、誰もが主張した。

    古都子に関してはそれが無い。総司が話したくなければそれでいい。話したい時が
    来たら話してくれればいい。
    そうされると、今度は古都子に何でも打ち明けたくなる。
    何でも受け止めてくれるという気がしてくる。

    何を着ていこうかしら・・・とクローゼットを開けて悩んでいる古都子を、総司は後ろから
    抱きしめた。

    「何でもいいよ。いつも通りでいい」
    「そういうわけにはいかないわ」

    古都子は、自分が品定めされるのだということをじゅうぶん理解していた。

    ホテルで行われた結納の時もしっかりと所作を身につけ、言葉遣いにも注意を払い、
    一之瀬の家の女性の誰よりも優美な振舞いで、それでいて控えめな態度で通した。

    口うるさい姉や叔母たちも、非の打ち所がなかったのか、その後も古都子について不満を
    言ってくることは無かった。

    一之瀬の人間に合格点をもらったのだ。それは誰に紹介しても問題がないことを意味する。

    「君は本当に素晴らしい女性だよ」

    総司はそう言って、古都子に優しくキスした。

    何を言ってるの、と言って古都子は照れて総司の身支度を手伝った。
    半裸の状態の古都子を再びベッドに押し倒したくなるが、そうもしていられない。

    総司が今まかされている仕事の要が、石油・天然ガス開発事業だった。
    現在の小規模なものをさらに飛躍させ、生産量を国内で上位にのせろというものだった。
    そのために英国の石油開発会社の買収の準備にとりかかっている最中だった。

    忙しいのは本当で、総司は休みという休みをまともに取れていなかった。
    古都子にも寂しい思いを散々させている。

    早く買収を一段落させて、古都子とゆっくり休もう・・・・。
    そう自分を叱咤し、総司は会社へと向かった。

    「これで良かったかしら」

    仕事を半ば強引に終わらせた総司のもとに、黒いロングドレスを見に纏った
    古都子が現れたのは、21時をまわった頃だった。

    肩の部分と背中が黒いレースになっており、襟から胸下にかけてレースやパール、
    ラインストーンの飾りが曲線状に施され、胸が強調されている。

    ぴったりとしたデザインのドレスで、古都子のスタイルの良さが際立つ、総司も気に入っている
    ドレスの一つだった。

    古都子の美しい脚が隠れているのが残念だが、それは他の男に見せる必要はない。
    総司は満足気にうなずいて、古都子の手を取った。

    「十分美しいよ」

    髪はクラッシック風に編み込みしたアップスタイルで、可愛らしさと大人っぽさが
    演出され、ドレスにも合っていた。

    アクセサリーも控えめで、いろいろ模索し、総司のためを思って努力したことが伺える。

    総司に言われて古都子は安心したようにホッと小さく息を吐き、ニコリと笑った。

    車は会社に置いてタクシーで約束の場所に向かった。

    清太郎が指定してきた帝国ホテル内の高級フランス料理のレストランは、総司もよく
    食事をしたことがあった。
    当然ドレスコードがある。古都子にドレスアップしてきてもらって良かった。

    レストランに向かう途中、総司はあることを思い出していた。

    (しまった・・・。すっかり忘れていた・・・・)

    総司の中ではとうの昔の出来事で、もはやどうでもいいことにまでなっていたが、
    古都子にとってはそうではないであろう。

    総司は古都子に前もってわざわざ言う必要もないと思ったが、向こうから’そのこと’を
    告げられる可能性は十分ある・・・。

    ’そのこと’というのは、清太郎の妻、優華との’過去’だった。

    優華は茶道の家元の生まれで、厳しい家庭で育った反発からか、高校を卒業してからは
    親に内緒で派手に遊んでいた。

    大学生時代、夜遊びに出ると、いつも遊ぶグループにいつからか優華は混ざるようになって
    いた。
    そこには清太郎もいたが、当初は清太郎も総司も優華と特別仲良くなることもなかった。

    ある日、酒の勢いで、たまたま側にいた優華と一夜を共にしたことがあった。

    総司にしてみれば若気のいたりである。
    特定の恋人を必要としていなかった時期の、ほんの遊びだった。
    どんなセックスをしたのかも記憶にない。

    優華はその後も何度か関係を迫ってきたが、総司が興味を持っていないことがわかると、
    深追いすることなく諦めたようだった。

    総司は徐々にそのグループから離れていき、清太郎とも疎遠になっていく。

    大学を卒業する頃に、初めて優華と清太郎がつきあっていることを知った。
    しかし、特別な感情は沸くことはなかった。それは二人が結婚してからもである。

    結婚後も、清太郎と会う時は優華とも顔を合わせたし、かといって何か言われるわけでも
    なく、優華との一夜は闇に葬られたままだった。

    しかし・・・・。

    今回、古都子を会わせるにあたって、昔のささいな傷を掘り返されないだろうか、という
    疑念が沸いてくる。

    もはや昔のことだ。優華のことを愛していたこともない。
    しかし、総司にとって何でもないことでも、古都子にとってはそうではないだろう。

    逆の立場だったら、総司はおそらく相手の男に激しく嫉妬し、その場をすぐにでも立ち去る
    に違いなかった。

    優華が何も言わなければいいが・・・。

    その心配が思わず口に出た。

    「・・・何か気に障ることを言われても、決して気にしないで」

    総司がいきなりそんなことを言ったので、古都子は驚いているようだった。

    「何か気に障ることを言われる可能性があるのかしら?」

    古都子が少し悪戯っぽく微笑んで言った。

    「少し・・・変わった人たちだから・・・」

    総司は返答に迷った結果、ごまかすように言った。

    何もなければいい。さっさと食事を済ませて帰ろう・・・。

    しかし、事態は総司が願う方向とは逆の方向に向かっていくのだった。


    「お待たせ」

    総司が古都子と一緒に現れると、清太郎は大げさなリアクションで再会を喜んだ。

    「久しぶりだな!」

    握手をかわし、総司の肩をばしばしと叩く。

    それからすぐに古都子に視線を移した。

    「初めまして。近藤清太郎です」
    「初めまして。大貫古都子と申します」

    清太郎が古都子の手をとり、握手をする。

    優華も立ち上がり、清太郎と交代して古都子と握手をした。

    「家内の優華です。よろしくね」
    「古都子です。よろしくお願いします」

    古都子は丁寧に頭を下げて挨拶をした。

    「驚いたな。美人じゃないか」

    清太郎はニヤニヤ笑いながら古都子を品定めした。

    背も高く、顔も悪くない清太郎だったが、性格の歪みが表情に現れている。
    それさえなければずっといい男なのに、と総司は会うたびに思うのだった。

    「本当。思ってたよりずっと綺麗な方で驚いたわ」

    優華はそういいながらも、本心では決して自分の方が劣っているとは思っていない
    ことが良くわかる。目が笑っていなかった。

    胸元が大きくあいた、ルビーピンクの派手なドレスに、これみよがしにつけた宝石の
    数々が、よりいっそう優華を派手に印象付ける。

    美人だが、すこしつりあがった目元は優華をキツイ性格の女性だと思わせるものだった。
    そのキツさは、年齢とともに増している。


    「とにかく最高に空腹なんだ。食事を始めよう」

    総司は古都子の椅子を引き、スムーズな所作で座らせると、ウェイターを呼んだ。

    「おい、馴れ初めを聞かせろよ」

    清太郎は待ちきれないという様子で尋ねる。

    「旅先で会ったんだ」
    「旅先で?なんだかお前らしいな」

    総司は清太郎の言葉をさえぎって料理とワインを注文した。
    清太郎たちは既に注文を済ませていたようで、古都子の好きな魚介類をメインに二人分選んだ。

    「どちらで知り合ったの?」

    優華が柔らかい笑顔で古都子に問いかける。

    「プーケットです」

    古都子が答えると、清太郎はフン、と鼻で笑った。

    「プーケットねぇ。そういえばお前のとこ、海外不動産業にかなり手出してるって話だったな。
    どうだよ、そっちは」

    清太郎が総司にライバル心をむき出しにして言った。

    「まだまだ君のところには及ばないさ」

    総司は適当に答えた。

    「あなた、今日はお仕事の話はやめにしてください。せっかくなんだから、古都子さんのことを
    もっと知りたいわ」

    優華が清太郎を睨んで言った。本人としては実際に清太郎の仕事の話にうんざりしている
    ようだったが、総司にしてみたらありがたい助け舟だった。

    「総合商社様はいろいろ手をお出しになるからな。こっちはたまったもんじゃないよ」

    それでもグチグチ続ける清太郎を無視して、優華が尋ねる。

    「古都子さん、良くこの曲者を打ち落とせたわね。なかなか手強かったでしょ?」
    「打ち落としたのは俺の方だよ。彼女はなかなか手強かった」

    総司が古都子のかわりに答えた。
    古都子は恥ずかしがって頬を染めた。

    総司の’ノロケ’に、優華の表情が一瞬歪む。

    「あら・・・。そうなのね。一之瀬くんの方が’ぞっこん’てわけだ」

    すぐに表情を戻して微笑みながら優華が言った。

    「ぞっこん、なんてどころじゃないね。今はもう、彼女なしの生活なんて考えられないよ」

    総司はそう言って古都子の手に自分の手を重ねて、見つめあった。
    古都子は照れて何も言えないようだったが、二人の間に甘い空気が流れているのは
    傍目からでも良くわかった。

    総司は本心から言った言葉だったが、二人の前で古都子への愛をしっかり示そうという意志もあった。

    おそらくこの二人は、総司が気まぐれか、家のために結婚したのだと思っていて、
    結婚したといっても、総司がフラフラするだろうという予想を立てていたのだ。
    引いては、一之瀬もそう長くないな、などと噂されることにも繋がっていくだろう。

    総司が古都子を本当に愛しているのだということを、たとえ大げさでもアピールする
    必要があった。

    二人は案の定、呆気に取られているようだったが、特にそのことには触れなかった。
    ワインと前菜が運ばれてきて食事がスタートする。

    「古都子さんのお父上は何をしているんです?」

    清太郎が何気なさを装って、その実、それが一番重要だと内心思っている様子で
    尋ねる。

    「アパレル関係の会社を経営しています」
    「ふーん。なんていう会社です?」

    古都子は答えていいのかどうか迷ったようで、総司をチラと見た。
    総司は問題ないよ、というかわりに頷いてみせた。

    「オークホールディングスという会社です」
    「へぇ・・・!あの、最近急成長してる会社か。知ってますよ」

    清太郎は知っている社名が出て少し驚いているようだった。
    おそらく名の知れぬ小さい会社を想像していたのだろう。

    それでも、’家柄’や’知名度’、’権力’といったものを重視して人を判断する
    清太郎にとっては、古都子の会社はレベルが低いことになる。

    その時点で、彼の中では自分の妻よりもレベルが低いことになり、結果、総司より
    優れた相手と結婚した自分の方がすごいということになるのだった。

    ’勝ち’を知った清太郎の機嫌は良かった。

    冗談を言って、古都子を笑わせ、古都子を褒め、総司を持ち上げるエピソードを
    並べる。わかりやすい男だなと総司は内心あきれていた。

    それは優華の方も同じだった。
    総司が連れてきた婚約者が、自分よりずっとレベルが上だと感じたら、こんなに好意的に
    接してくれなかったであろう。

    表面上は親しみを込めて接し、心の中で相手を見下す。そういった連中が多いのだった。

    それでも総司は滞りなく食事会が進むことで安心をしていた。
    優華が昔のことを掘り下げるようなことはもちろんなかったし、清太郎の方も昔の
    女性関係について暴露することもなかった。

    優華は、実家で茶道教室の師範として茶道を教えているから、古都子もぜひ来て
    ほしいと誘ったりしていた。
    古都子も教えていただきたいですと喜んで受け答えしている。

    二人の関係がこの先もうまくいってくれればいいが・・・。

    総司の心配とは裏腹に、食事は始終なごやかな雰囲気で終わった。



    「これから別の場所に移動しよう」

    食事を終えると、清太郎が切り出した。
    総司はすぐにでも帰るつもりだったが、清太郎はその隙を与えなかった。

    自分たちが先にタクシーに乗り込んで、後ろから着いて来いと言ってさっさと
    出発してしまった。


    「どこに行くのかしら」

    少し不安げに古都子が訪ねる。

    「さあね。このまま帰ってもいいよ」

    総司は古都子の肩を抱いて囁いた。ひんやり冷たい古都子の二の腕を優しくなでる。
    このまま帰って古都子とゆっくり過ごしたい。そう強く思っているのは総司の方だった。

    「そんな失礼なことできないわ。最初ですもの。ちゃんとお付き合いしましょうよ」

    とはいえ、総司は次の場所で少しつきあったらすぐに帰ろうと心に誓った。

    すでに日付は変わっている。いつまでも付き合っているわけにはいかない。

    到着したのは、高層ビルの最上階にある、小さなバーだった。
    あまりに奥まった場所にあり、通常は見つけることができないであろう。
    どうやらセレブ御用達の会員制のバーのようだった。

    一時期は総司もこういった場所を使っていたが、今現在は必要性を感じることがなかった
    ため、久しぶりに店に入って少し違和感を感じた。

    会員になるのに200万、年会費は20万はかかる。清太郎はこういった’特別なこと’を
    昔から好んでいた。

    東京の夜景が一望でき、そこらじゅうにきらびやかな宝石がちりばめられたかのような
    景色はまさに絶景だった。

    古都子は大変喜び、上機嫌だった。

    豪華なソファにそれぞれ座り、ワインを注文する。

    「古都子さんは趣味は何かおありですか?」

    清太郎がソファに深く身を沈めて尋ねる。

    「趣味というほどではありませんが・・・料理は好きです」

    古都子が謙虚に答える。

    「音楽はどうです?ピアノとか」
    「ピアノは少しやっていました。今はめったに弾くこともありませんが、クラッシックを
    聴くのは今でも好きです」
    「それはいい」

    清太郎は待ってましたといわんばかりに、立ち上がった。
    総司は嫌な予感がして清太郎を見上げた。

    「ベーゼンドルファーのインペリアルがこの店にありますよ」
    「まあ・・・!ベーゼンドルファーですか・・・」

    2000万はする代物である。古都子が驚くのも無理はない。
    少し弾かせてもらおうと清太郎は、驚く古都子の手を引いた。

    「お姫様を少しの間借りるぞ」

    そう言って店の奥へと古都子を連れていった。
    古都子が戸惑いながら何度も総司を振り返る。

    引止めるか迷ったが、その間に清太郎は古都子をピアノの前に座らせてしまった。

    総司はため息をつき、手にしていたワインを一気に飲み干した。

    「娘の行く末を心配する父親みたいね」

    優華がクスリと笑った。

    「・・・君はいいのか?」

    総司は、旦那が他の女に現を抜かして、という意味で言った。

    「全く気にならないわ。むしろそうしてもらってありがたいぐらいよ。あなたと二人で
    話したかったから」
    「・・・・・・」

    総司の方は優華と二人きりになどなりたくなかった。

    古都子たちに目線を向けるが、古都子は名器を前に喜びの表情を浮かべている。
    その隣で清太郎が、古都子の顔に顔を近づけて何やら指導しているのだった。
    その手は古都子の肩に触れたり、手を握ったりしている。

    嫉妬心が炎のように燃え上がる。
    今すぐ駆け寄って、触るなと清太郎に殴りかかりたいくらいだった。

    しかし、今はそれを抑えるより他ないのだった。

    「・・・・ねえ。古都子さんの、どういうところが気に入ったの?」

    気がつくと優華が総司との距離をつめて、近寄っていた。

    「もう、一生彼女だけ・・・・ってことは、ないわよね?」

    声がいやに甘ったるい。総司は嫌悪感が顔に出ないよう気をつけた。

    「どういう意味?」
    「そういう意味よ」

    優華はワイングラスが空になると、黙って総司の前に突き出した。
    総司は何も言わずワインを注いだ。

    「一生彼女だけだ」
    「それって、もうこの先、他の女とはセックスしないってこと?」
    「・・・・当然だ」

    総司は優華との会話にイライラし始めていた。こんなくだらない会話を
    交わしている時間はなんて無駄だろうと思わずにいられなかった。

    「ね・・・・・。忘れてないわよね。私とセックスしたこと」
    「・・・・・・」

    優華は総司の腕に手をかけて身を寄せて囁いた。

    「私、今でも思い出すのよ。あんなに激しくて恍惚感を味わったセックスはあれ以来
    経験がないわ。もう一度・・・しましょうよ」

    総司は優華が触れている部分から全身へと猛烈な嫌悪感が走るのを感じた。

    「冗談はよしてくれ」

    総司はそれでも気を静める努力をし、優華の手をそっと離した。

    「冗談なんかじゃないわ。本気よ」

    優華は今度は総司の太ももに手を乗せた。

    ああ、なんでこんな女を抱いたのだろう・・・。

    総司の心の中で大きな後悔が渦となって広がった。

    遠くから聴こえる古都子が弾くピアノの音色が更に追い討ちをかける。

    総司は優華にはっきりと告げることにした。

    「悪いが・・・・。君とのことは少しも記憶に残っていない。この先も、そういう
    気持ちにはならない」

    優華は途端に表情を険しくした。

    「少しも記憶にないですって・・・・?」
    「君は清太郎の奥方だろう?何を言ってるか、自分でわかってるのか?」

    総司がそうたしなめると、優華はフン!と鼻で笑ってソファにドカッとふんぞり返った。

    「つまらないこと言うのね。まあ、あなたは昔から清太郎と比べてずっと真面目
    だったけど」

    この時点でようやく、この夫婦の関係はうまくいっていないのかもしれないと
    総司は思った。

    「清太郎と私、結婚してからもお互い他に相手はいるし、それを隠そうともしてないわ。
    お互い自由なの。ね、こういうのはどう?相手を交換しあうっていうのは」
    「・・・・なんだって?」
    「スワッピングよ。奥さんが他の男に抱かれるところを見ながら、私とセックスするの。
    きっと燃えるわよ」

    総司は呆れてそれ以上何も言うことができなかった。
    優華がこういうことを言うということは、清太郎もその気なのだろうか。

    すぐさま古都子を連れて帰ろう。総司にはもはやそれしかなかった。

    そう思って立ち上がろうとした時、古都子たちが戻ってきた。
    古都子はニコニコと上機嫌だった。

    「いやー、古都子さんの腕前はなかなかだった。聴いてた?」
    「ええ、聴いてましたわ。扱いづらいベーゼンドルファーをよく弾きこなして
    らっしゃったわね」

    優華が作り笑顔で言った。

    「とんでもないです。やはり普通のピアノとは違って音の立ち上がりが遅かったり
    で・・・。難しいんですね。でも、弾かせていただけて光栄でした。さすが上質な
    音色でしたわ」

    古都子は清太郎とまだピアノについて話していたが、総司はそれをさえぎった。

    「古都子、そろそろ帰ろう」

    総司の言葉に清太郎がハッとする。

    「何言ってんだよ。まだ全然飲んでないじゃないか」
    「いや、もう帰るよ。明日重要な商談が控えてるんだ。悪いな」

    総司の声が一段と低くなり、ゆるぎない意志であることがみんなに伝わる。
    気まずい空気が流れ、誰もが黙りこんだ。

    古都子がすかさず雰囲気を変えようと口を開いた。

    「あの、私、帰る前にちょっと・・・失礼します」

    そう言ってバッグを手にして、化粧室へと消えていった。
    自分が戻ってきたら、総司と帰ることを匂わせ、一瞬の小休止を与えたのだった。

    「私も」

    そう言って優華も化粧室へと向かった。

    嫌な予感が再び訪れる。
    優華は何か古都子にするつもりではないだろうか・・・。

    「女性たちが戻ってくるまで、お前も座って待てよ」

    清太郎はワイングラスを持って不機嫌そうに言った。

    総司は黙って座り、水を持ってくるようウェイターに伝えた。
    すぐさま水が運ばれ、一気に飲み干す。

    「しっかし、お前が結婚とはね・・・」

    清太郎がぼんやりした表情で言った。

    「不自然か?」
    「いや、そんなことはない。良かったな。いい嫁さん見つけて」

    予想外の言葉に総司は少し面食らった。
    清太郎はお世辞で言ってるわけではなさそうだった。

    「彼女に、『総司のためにどこまでできる?』って聞いたんだ」
    「・・・・どこまで?」
    「死ねるかって聞いたんだ」


    清太郎にしては意外な質問だった。誰かのために死ねるか、など、考える
    こともないような人種だと思っていたからだ。

    「そしたら何て言ったと思う?」
    「・・・・さぁ」

    古都子なら何と言うだろう。建前で『死ねる』と言うかもしれない。

    「『愛する人を失うことは、時として死よりも辛いと思ってます。総司さんには
    そんな想いをさせたくない。総司さんより先には死ねません』だって」

    古都子の言葉に総司の胸が熱くなる。

    自分や古都子が死ぬことを実感したことは無い。
    しかし、古都子のその言葉は、死ぬ時は古都子が見送ってくれるのだという絶大なる
    安心感を総司に与えた。

    「究極のノロケだよなぁ。自分がそれだけ愛されてるって自信と、自分自身相手を失うことが
    死よりも辛いって思う気持ちがないと、そんなこと言えないよ」
    「・・・・・・」

    清太郎は珍しく寂しそうだった。
    何か考え込んでいるようにも見えた。

    「俺は・・・優華より先に死にたいとも思わないし、あとに死にたいとも思わない」
    「お前たち・・・何かあったのか?」

    清太郎のいつもと違う雰囲気に、総司は思わず尋ねた。

    「何もないよ。何もないんだ。だからお前たちが羨ましいよ」

    先ほどの優華の話が関係しているのだろうか・・・。
    夫婦の溝は総司が思ったよりずっと深そうだった。

    「お前はいいよな。実質会社の経営も任されてるし、一之瀬の跡継ぎとして人望も
    厚い。嫁さんは出来た女だ。それに比べて俺は兄貴の下で給料に見合わない少量の
    雑務をこなして過ごす日々。嫁との距離は日に日に広がっていく・・・」

    清太郎は総司をうらやましがって言った。

    しかし、それはどこか、『お前は努力せずに全てを手に入れている運の良い奴だ』と
    いうニュアンスが含まれているように思えた。

    実際は、総司なりに努力を積んできたし、人がやりたがらない仕事もやってきたし、
    情けない経験も散々してきた。

    一之瀬の家のためにと厳しい教育にも耐えてきたし、内外からのプレッシャーは
    生まれた時から与えられ続けている。

    何もかも順風満帆に進み、今があるわけではない。
    どちらかといえば、清太郎の方が代々伝わる家とはいえ次男であるし、大学卒業と
    同時に役職も与えられ、順調な人生を歩んでいるといえる。

    しかし、それをあえて清太郎に言うつもりもなかった。
    清太郎は清太郎で、家のことや仕事のことで悩んでいるのであろう。

    総司は清太郎の顔をじっと見つめた。
    最初は気がつかなかったが、少しやつれているように見える。
    目が落ち窪んで、顔色が悪い。

    どこか身体を悪くしているのでは、と総司は思った。

    「どうだ。人の弱音や不幸は聞いてて気分がいいだろ?」

    こういうところが清太郎らしい。
    総司は苦笑いして言った。

    「お前と一緒にするな」
    「相変わらずかっこつけやがって。俺はお前に幸せになってほしいなんて思ってないぜ。
    お前が不幸になるところを見るのを楽しみに生きてんだ」

    冗談とも本気ともつかない口調で清太郎は言った。

    「そんなことを楽しみに生きてないで、もっと嫁さん大事にしろよ」

    総司は少し真面目な口調で言った。

    「余計なお世話だよ。あんな尻軽な女。お前も知ってるだろ?あいつはもともと
    お前を狙ってたんだ」
    「知らないね。そんなこと。それより大事なのはこれからだろ。お前が幸せにして
    やらないでどうする」

    そこで一瞬ひらめいた言葉があった。総司はよく考えもせずその言葉を口にした。

    「嫁さん、寂しがってるぞ。もっとお前を・・・必要としてるんじゃないのか」

    総司はそんなこと思ったこともなかった。なぜそんなことを口にしたのか、
    本人でも不思議だった。

    「・・・・・・」

    清太郎は黙って総司を見つめた。清太郎も、総司がそんなことを言い出したことに
    驚いているようだった。

    「そんなわけ・・・あるか・・・・」

    清太郎は弱々しく悪態ついたが、何か考えこむように黙ってしまった。



    ようやくそこへ古都子と優華が戻ってきた。

    古都子の顔を見て、総司はハッとした。
    明らかに泣いたあとの顔をしている。

    しかし、それを悟られないよう無理に笑顔を作って振舞っていた。
    清太郎は異変に気がつくこともなく、大人しく帰ろう、と言って立ち上がった。

    優華の態度も特にかわった様子はなかった。

    店を出て総司たちを先にタクシーに乗せる。

    「じゃあな。次は結婚式で会おう」

    清太郎はいつもの調子に戻ってそう言うと、総司たちの元を去った。

    タクシーの中、古都子はうつむいたまま、何も言わなかった。

    総司の胸の中の嫌な予感が確実なものへとかわっていく。

    「古都子・・・・?」

    古都子の瞳から一滴の涙がこぼれた。

    「ごめんなさい・・・・」

    古都子は慌ててハンカチで涙を拭いた。
    総司が古都子の手を掴む。

    「・・・・何か、言われたんだね?」
    「・・・・・・」

    古都子は何か言おうとしたが、口を開くと泣いてしまうといった様子で、口を
    きゅ・・・っと閉じてうつむいた。

    「古都子、俺の目を見て」

    総司はそう言って古都子に上を向かせた。
    潤んだ瞳が悲しみと嫉妬心を携えている。

    「私・・・・嫌な顔、してるでしょう?」
    「何言ってるんだ。そんなことない」

    総司の本心も古都子には届かないようだった。

    「うそよ・・・・。私、あなたと優華さんのこと聞いて・・・・。心から憎いと
    思ったわ。過去に嫉妬しても仕方ないってわかってるけど・・・・。どうしようも
    なくて・・・」

    古都子は総司から顔を背けた。古都子の拒絶に少なからずショックを受ける。
    おそらく優華は事実を何倍にも誇張して古都子に話したに違いない。
    深く愛し合った、とでも言ったかもしれない。

    総司は何を言っても通用しないと思ったが、ここで話をうやむやにしたら、後々の
    二人の関係に支障が出てくるだろう。
    きちんと自分の想いを告げるしかない。

    「古都子、君に前もって俺の口から言っておくべきだった。そこから逃げた俺が悪い」

    総司は言葉を選んで古都子に謝罪した。

    「ずっと昔に・・・清太郎と彼女が結婚する以前に一度だけそういうことがあった。

    しかし、俺の記憶の中にはいっさいその時のことは残っていない。こんなこと言ったら
    君は軽蔑するかもしれないけど、そこには愛情なんて少しもなかった」

    古都子はハンカチで目をおさえた。端がじんわりと赤くなっている。

    怒ってくれた方がどれだけマシだろう。古都子の悲しむ姿を見るのは胸をひきさかれるほどに
    辛い。ましてやその原因が自分だということが、いっそう総司を苦しめた。

    「古都子・・・・。俺が今一番失うのを恐れているのは君だ・・・」

    総司のその言葉に古都子はようやく顔を上げて総司の目を見た。
    総司は古都子の手をとり、指にキスした。

    「自分の命を失うより、君を失うことの方がずっと辛い」

    総司は自分の心の中にある想いを素直に告げた。

    「こんな風に想うのは、あとにも先にも君だけなんだ・・・」

    総司の搾り出すような囁きを、古都子はじっと総司の目を見つめて聞いていた。
    果たして古都子の心に総司の言葉は響いただろうか。

    総司は次に続ける言葉を探したが、それ以上に古都子に伝えたい言葉は出てこなかった。
    どうか信じてほしい、と心の中で祈るだけだった。

    そんな総司を見て、古都子がクス・・・っと笑った。

    「次はどんな甘い台詞が出てくるの?」

    古都子の笑顔に総司はホッとして表情を緩めた。

    「もうこれ以上は搾り出せないよ」

    古都子は笑って総司の手をぎゅ・・・と握り返した。

    「・・・私、まだ少し自信がないみたい。あなたみたいな人の奥さんが本当に私でいいのかしらって・・・。
    なんだか必死になってからまわりしてるように感じる時もあって・・・」

    古都子が古都子なりに総司のことや一之瀬の家のために尽くしてくれていることは
    総司が一番良くわかっていた。
    様々なことが始まったばかりのこの時期に、古都子の不安を煽るようなことをして
    心から申し訳なかったと総司は思った。

    「優華さんに言われて、ちょっと自信なくしちゃったけど・・・。でも、総司さんを想う
    気持ちは誰にも負ける気がしないの。優華さんにもはっきり言っちゃった」

    古都子はふふ・・・と恥ずかしそうに微笑んだ。



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