オフィスラブ【湯山 partU】


  • 湯山陽平はイライラしていた。

    契約がなかなかスムーズに進まないこともそうだったが、三上涼子が同期一嫌われている桜庭浩太と
    どうやら付き合っているという話を耳にしたからだった。

    つい先日、湯山は涼子から告白された。

    涼子とは長いこと友人関係を保ってきたが、湯山の気まぐれで肉体関係に発展し、そのせいで涼子は
    湯山に恋してしまっていたのだ。

    『悪いけど・・・それはできない。』

    告白された瞬間、園子のことを思った。

    (今・・・終わりにできるのか?)

    できる自信がなかった。迷っている時は冒険をしない主義の湯山は、はっきりと断った。

    湯山が涼子とセックスしてみる気になったのは、ただの好奇心からだった。

    いつもセックスがへたくそな男ばかりだと、罵ったり、注文つけたりする涼子を
    弄んでやろうと思った。

    しかし、湯山は涼子が自分を好きになることまで予想していなかった。
    いや、もし好きになったとしても、友達の関係を壊すようなことはしないと思っていたし、
    湯山もそのつもりだった。

    (だからって桜庭と付き合うなんて・・・馬鹿か、あいつは)

    湯山はどうしてもやめさせようと思っていた。
    桜庭は盗撮してはネットで画像を流していると、男性社員の間では有名な話だった。

    会議が終わり、会議室を出ると、涼子が1人階段で降りていく姿が見えた。
    思わず走り、後を追う。

    「三上!」

    涼子が驚いた顔で振り仰ぐ。顔色が悪い。

    「湯山・・・」

    涼子の止まったところまで降りて並ぶ。

    「何・・・どうかした?」

    湯山は迷った。

    ここで自分が止める権利があるか?

    今、何か言ったところで涼子の気持ちに答えてあげられるわけではないのだ。

    しかし、桜庭だけはどうにも認められない。

    「お前・・・桜庭と付き合ってるんだって?」

    その言葉を聞いて涼子が目を逸らした。

    「付き合ってるわけじゃないけど・・・」

    湯山は涼子の腕を掴んで体を引っ張った。
    それでも涼子は顔を向けない。

    顎を掴んで顔を自分の方に向けたい衝動に駆られる。

    「けど・・・なんだよ。まさか、やったのか。あいつと。」

    涼子は力をいれて湯山の腕を振り解いた。

    「湯山には・・・関係ない」

    その言葉に湯山の心の奥で、苛立ちのような、怒りのような感情が沸いた。

    関係ない?セックスしといて?

    告白を断っておいて、湯山は自分の中に矛盾する気持ちが芽生えていることに気がつかなかった。

    「・・・本気で言ってんのかよ」

    「と、友達として心配してくれてるならありがとう。でも・・・今はそっとしといてくれる?」

    (友達だって?)

    湯山は「友達」という言葉に違和感を感じた。
    セックスしている時の涼子の乱れる姿や湯山にしがみつく姿が頭をよぎる。

    (あんな風に俺に抱かれておいて、友達だって?)

    「俺がだめだからって、あんな奴にいくことないだろ」

    「そんなんじゃない。けど、湯山がそう思うなら、そう思ってればいい。
    桜庭は私といると幸せだって言ってくれる。セックスの後、いつも泣きながらありがとうって言ってくれる。
    誰かに・・・必要とされたいの・・・。」

    湯山はイライラした。

    セックスのあとに礼を言うなら誰とでもやるのか?
    必要とされたい?一体、桜庭にどんな風に必要とされているっていうんだ。

    「だからって・・・好きでもないやつとやるなって言ってんだよ」

    「湯山に言われたくない」

    「俺はいいんだよ。男なんだから。でもお前は・・・」

    「違う!そういうことじゃない。湯山だって・・・好きでもないのに、私を抱いたじゃん・・・」

    湯山は口を噤んだ。
    確かにそうだ。涼子を好きだと思って抱いたわけではなかった。

    湯山の愛情は全て園子に向かっていた。それはどんな女を抱いても揺ぎ無かった。

    では、今のこの、涼子に対して抱く気持ちは一体何だ?

    自分のセックスに夢中になっていた涼子が、あの桜庭の"モノ"を突っ込まれているのかと思うと、
    ものすごい嫌悪感を感じた。

    涼子はそのまま目を合わさず去っていった。

    その後も涼子とほとんど話をしない日々が続く。
    桜庭と話をしている姿を見ると、ものすごく不愉快であった。

    それでも涼子の気持ちに答えられない以上、湯山は何も言うまいと心に決めていた。


    しかし、今回は違った。
    本当は涼子にやめさせたかった。
    しかし、平気なふりをしなくてはいけない。

    (俺は・・・あいつが好きなのか・・・?わからない・・・。)

    湯山は自分でも説明のつかない感情に戸惑った。
    園子のことははっきりと愛しているといえた。
    その感情とは違う、説明のつかないこの感情は何なのだろう・・・。



    そうこうしているうちに、大阪の契約がやっと決まり、諸々の手続きも一段落し、湯山は
    ようやくいったりきたりの生活から解放された。

    今週末にでも園子に会いに静岡に行こうと思っていた。

    「おい、湯山ぁ、社員旅行行くよなあ?」

    昼休み、食堂で同僚の男性社員が湯山に声をかける。
    湯山は社員旅行のことをすっかり忘れていた。

    「それって・・・いつ?」
    「今週の金、土だよ。お前が来ると思って参加する女子が多いからよぉ。来てくれるよな!?」

    湯山はため息をついた。正直言って全く乗り気ではない。
    疲れに行くようなものだ。

    「行かない。」

    湯山はこの話は終わりだといった風にトレーを持って立ち上がった。

    「ちょ、ちょっと待てよぉ!頼むよ。お前が来るからって誘った女の子が多いんだって。
    お前と違ってモテない俺らは社員旅行で女子達とお近づきになろうってはりきってんだよ。
    助けてくれよぉ。」

    男性社員は湯山の腕を掴んでお願いした。

    「・・・じゃあ、交換条件」

    湯山が腕を振り解いて言う。
    男性社員が目を輝かせた。

    「何!?何でも聞く!」

    何でも聞く?湯山は無茶な条件を出そうかと思ったがやめた。

    「今回、伊豆たったよな。伊豆から静岡までと、静岡から東京のチケットよろしく」

    湯山は社員旅行が済んでから静岡に行こうと思った。

    「え?そんなんでいいの!?オーケーオーケー!ありがとうな!」

    男性社員は喜んで湯山の持っていたトレーを奪い、勝手に後片付けまでしてくれた。

    別に交通費くらい自分で出してもよかった。お願いといわれると素直に応じる性格ではなかったので、
    交換条件を持ち出しただけだった。

    社員旅行に涼子も来ることは知っていた。
    いつもなら夜遅くまで一緒に飲むはずだったが、今年はできないだろう。

    涼子は特別美人でもなかったし、スタイルも決して良いとは言えなかった。
    ただ、セックスするには湯山をそそる体つきをしていた。
    園子にはサド行為をすることは無い。そういうタイプではないからだ。

    しかし、涼子は本人も気がついていないが、完全なマゾヒストだった。
    涼子とのセックスを思い出す。

    湯山は沢山の女を抱いていた。どんなセックスをしたかなど、すぐ忘れる。
    しかし、涼子は違った。頭から離れない。

    桜庭のぶよぶよした体に組み敷かれているのを想像して気分が悪くなる。

    (あの馬鹿・・・)

    社員旅行では湯山は普段話さない女性社員たちが寄ってきて、酒を注ぎにきた。

    湯山は今まで社内の女性には手を出さないできた。

    ややこしいことになるのが嫌だったし、仕事に支障が出るようなことは避けたかった。

    涼子は湯山の仕事への姿勢をよく知っていたし、そういう関係になっても邪魔になることはないと思っていた。

    実際、涼子がまわりに湯山のことを話したりすることはなかったし、社内で不自然な行動をとったりという
    ことはなかった。

    しかし、今は・・・。

    湯山は涼子のことが気になって仕方なかった。心配という感情の方が近いかもしれない。

    同期だけで飲むことになり、部屋を移動している時だった。

    「あの、湯山さん、ちょっといいですか??」

    1人の女子社員に声をかけられた。
    オフィスで見かけたことがある気はしたが、名前までは覚えていなかった。

    浴衣を着ているので、風呂上りなのだろうが、化粧もバッチリで、髪も綺麗に巻かれていた。
    浴衣の襟もとから谷間がのぞく。かなりの巨乳らしかった。

    「何?」

    湯山が冷たい視線を向ける。

    「・・・今夜、二人で抜けません??」

    上目遣いで、さりげなく湯山の二の腕に手を添える。

    湯山はこういったタイプの女が大嫌いだった。自分のことを可愛いと思っている女は。

    マゾぶっていても、セックスしてみると大概が逆だった。態度には出さないが、湯山に征服されたいのでは
    なく、湯山を征服したがっていることがすぐわかる。

    その点、涼子は完全にマゾタイプだった。
    湯山に征服されたがっているのが直球で伝わってくる。

    「何で?何すんの?」

    湯山が冷めた声で返す。

    「え〜・・・?何って・・・」

    うふふと女は笑った。

    「あんたじゃ勃たない。悪いけど。」

    そう言い捨てて、絶句する女子社員を残してその場を去った。




    部屋に入るとほとんどが揃っていた。桜庭がまだいない。

    涼子は部屋の隅でうつむいてビールを飲んでいる。既にかなり酔っ払っているように見えた。

    風呂上りで髪を結い上げたうなじに舌を這わせたいと一瞬思ったが、その気持ちをねじ伏せた。

    湯山が来たすぐ後に桜庭が来た。

    一同黙って桜庭が涼子の隣に座るのを見つめる。
    湯山はまたしてもイライラした。

    桜庭が白いぶよぶよした体を涼子に押し付けるようにして隣に座る。

    涼子は酔っ払って、開き直っているようにも見えたが、桜庭があまりにもデレデレと絡むので、
    いい加減怒っているようだった。

    とうとう桜庭が涼子の肩を抱いた時だった。
    湯山の中でイライラが頂点に達した。

    余計なことを考えることをやめた。

    気がついたら立ち上がって桜庭と涼子の前に立っていた。

    「桜庭、悪い。そいつ、俺のなんだわ」

    そう言って涼子の手を掴んだ。
    皆が呆気に取られている間に部屋を出た。

    (わかってる・・・こいつを自分のものにしたいんだ・・・俺は・・・)

    湯山は自分の心の底にあった気持ちを素直に認めた。

    「ちょっと、湯山、一体どういうつもりで・・・」

    涼子が海に来てようやく口を開いた。

    「どういうつもりはこっちの台詞だろ。いい加減にしろよ。あんな男、さっさと手を切れ」

    湯山は桜庭に肩を抱かれていた涼子を思い出し、思わず声を荒げた。

    「だって・・・」
    「だって、じゃない。お前が好きなのは俺だろ」
    「だって!・・・湯山のこと好きでいたって意味ないじゃん!」

    涼子が湯山を睨む。

    怒った顔が色っぽい。早くこの顔を快楽で歪めてやりたいと思う。



    「意味ないこと、ない」

    「え?」

    「意味ないことはないって言ってんだよ」

    認めたとはいえ、素直に涼子の気持ちに答えるには、湯山自身まだ時間が必要だった。
    つい素っ気無く言ってしまう。


    「それって・・・湯山を好きでいていいってこと・・・?」
    涼子の声が震える。

    「・・・ああ」

    「湯山が・・・私を好きってこと・・・?」

    「そうなんだろ・・・多分・・・」

    涼子が強く湯山の腕を掴んだ。

    「多分じゃなくて・・・ちゃんと聞かせて!」

    見下ろした涼子の眼差しはいつになく真剣だった。

    「あのなぁ・・・俺は本来、女が他のどんな男とセックスしたってどうでも良いと思う方なんだ。
    それを、嫌だと思うんだから、そうなんだろ、きっと。」

    実際、湯山自身何度も自分に問いかけた。
    例えば、桜庭以外の男がこいつを抱いたとしたら?
    やはり同じく嫌な気分になるだろう。

    「だって・・・だって、信じられないもん。湯山が・・・私を好きだなんて・・・」

    「俺だって・・・まだ自信ねーよ。明日になったら気が変わってるかもしれない」

    「自信なくてもいいから!明日になって気が変わってもいい!今、この瞬間に、湯山が少しでも私のこと
    好きなら・・・言って」

    湯山の脳裏に園子の顔がよぎる。
    涼子の気持ちに応えるなら、園子とはもう会えなくなる。
    昔の自分だったら、間違いなく園子を選ぶだろう。

    園子の笑顔が思い出される。

    (あいつは・・・最初から俺のものじゃ、無かった・・・)

    とっくに諦めていた。園子と一緒になるためにがむしゃらに働いてきたが、そうしながらもどこかで冷静な
    自分がいた。

    『そんなことしたって無駄だ』

    ムキになって園子を自分のものにしようとしていた時期は、もう過ぎてしまっていた。
    湯山の中で、目の前にいる涼子の存在の方が大きくなっていた。

    現時点で園子以上に好きかどうかは自分でもわからなかった。それでも涼子を選ぼうと思った。

    「好きだよ」



    涼子の顔がとたんに泣きそうな顔になる。
    湯山の首に両腕をまわし、抱きつく。

    「湯山・・・!」

    湯山も涼子の体を抱きしめた。

    「もう一回、もう一回言って!」
    「・・・三上が、好きだ」

    言葉にして、それは間違いでは無いと確信した。
    湯山が園子から卒業した瞬間だった。

    涼子が湯山にキスする。
    湯山もキスを返す。

    湯山は自分がずっと涼子とキスしたかったのだということを知った。
    夢中で自分にしがみついてくる涼子が愛しいと思った。

    その後、他人のクルーザーでひとしきり愛し合った。
    涼子を完全に征服したいと思った。
    涼子は全てを投げ出してきた。

    (これで良かったんだ・・・)
    湯山は用意してもらった伊豆行きのチケットを破って海へ捨てた。

    次の日、桜庭にだけはちゃんと話がしたいという涼子の代わりに、湯山が説明するため桜庭を呼びつけた。

    「桜庭、悪いな。あいつのことは、もう終わりにしてくれないか」

    湯山は本当なら桜庭に頭を下げることなんてしたくなかった。
    しかし、涼子と二人で話しをさせるのはもっと嫌だった。

    なぜか桜庭はもじもじと太った白い体を揺らし、頬を赤らめた。

    「いいけど・・・その代わり・・・」

    (その代わり?生意気に、条件を出そうってのか・・・)

    湯山が目を細めて、桜庭を見下ろした。

    「ぼ、僕と・・・友達になってくれる?」
    「と・・・・」

    湯山は絶句した。

    (桜庭と友達・・・だあ!?)

    冗談じゃないと湯山は桜庭を睨んだ。
    同僚ってだけでも気分が悪いのに、友達なんて考えられないと思った。

    「桜庭、悪いな。それは無理だ。」

    素直に断った。
    しかし、桜庭も引き下がらない。

    「ぼ、僕だって三上さんのこと、す、好きなんだ!それを無理やり引き裂いておいて・・・
    友達になってくれたっていいじゃないか・・・」

    引き裂くもなにも、涼子は桜庭のことを好きではなかったのだが、湯山は黙った。

    余計な事を言って、変なことをされても困る。この手の人間はキレると始末が悪い。

    湯山はため息をついた。

    「・・・わかった。」

    桜庭が突然両手を挙げて「ヤッター!」と叫ぶ。

    「じゃあ握手ね!」

    そう言って無理やり湯山の手を握った。
    汗でじっとりと湿った手の平に湯山は顔をしかめた。

    (何だって俺がこんなやつと・・・)

    腹いせに涼子を思う存分いじめてやろうと湯山は心に決めた。

    手を離し、桜庭のぶよぶよした腹の肉を思い切り掴んだ。

    「痛!」

    「・・・三上の裸、ネットで見かけたらお前を殺す」

    耳元でぼそりと囁いた。
    桜庭は固まり、動かなかった。

    とりあえずこれで大丈夫だろう。時々、また脅してやったらいい。




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