オフィスラブ【結 partU】


  • 純也と最初にセックスした次の日の朝・・・。

    携帯を見ると佑一からの着信が何件もあり、結は凍りついた。
    佑一は北海道に彼女と行っているはずで、結に電話をかけてくることはまずありえなかった。
    後半は家の電話からの着信となっており、佑一が急遽家に帰ってきていることがわかる。


    純也に悟られないように、何もなかったかのように振舞うが、心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。

    家の近くの駅まで送ってもらい、純也と別れてすぐに佑一に電話をかけた。

    「もしもし・・・」
    「・・・何してたんだよ」

    佑一の声は明らかに怒っており、これ以上ないくらい冷たかった。

    「ごめんなさい、お友達の家に泊まってて・・・。もう家の近くだから、すぐ帰る」

    結の話を最後まで聞くことなく、電話はプツリと切られた。
    結は走って家に向かった。

    (どうしよう・・・よりによってこんな時に・・・)

    青ざめた表情で玄関のドアを開ける。
    佑一はリビングでテレビを見ていた。

    「佑一さん・・・」

    結の方を見ることなく、佑一はテレビを見続けている。

    「ご、ごめんなさい。佑一さん、帰ってくると思わなくて・・・」

    結はおそるおそる佑一に近寄って弁解をしようとした。

    「あの、何かあったの?まだ北海道に・・・」

    突如佑一が手にしていたテレビのリモコンを床に叩き付けた。

    ガツン!

    「君が!福島の実家に帰るなんて嘘をつくからじゃないか!」

    佑一の目は怒りで釣り上がり、ギロリと結を睨みつけた。

    「え・・・?」

    結は何のことかわからずうろたえた。

    「君の母親が、わざわざ俺の実家に挨拶の電話をよこしたんだよ」
    「あ・・・!」

    結は自分の母親に今年のお盆はずっと福島の佑一の実家にいると嘘をついたことを思い出した。
    当然、結も佑一も福島になど行っておらず、母親同士、困惑したに違いなかった。

    「ごめんなさい・・・私・・・」

    佑一はうろたえる結を見て更にイライラしているようだった。

    「母さんがどういうことだと不信がって、今からこっちに来る。君が説明しろよ」

    それだけ言うと自分の部屋に入っていってしまった。
    佑一は母親に言われて、渋々北海道から昨夜急遽東京に戻ってきたのだった。
    恋人との旅行を邪魔され、更に結が家にいなかったことに相当腹を立てているようだった。

    結はどうしたらいいのかわからず、立ち尽くした。
    何と説明したら良いのだ。

    佑一が愛人と旅行に行くから、福島に行かなかった。その間、自分も別の男と過ごしていた・・・。

    それが真実だが、話せるはずがなかった。佑一ももちろん真実を話せと言っているのではない。
    『適当に誤魔化してやり過ごせ』と言っているのだ。

    ピンポーン

    チャイムの音にドキリとする。
    考えている余裕などなかった。
    結は急いで玄関へ向かう。

    扉を開けると、和服姿の佑一の母親が立っていた。
    背が低いが、目が細く吊り上っていて、いつも表情は威圧的だったが、今日はいつも以上に機嫌が
    悪そうだった。

    「おはようございます・・・お義母さん・・・」

    佑一の母は結を無視して家の中に入っていった。

    「佑一さん、佑一さん、出てきてちょうだい」

    甘ったるい声を出して佑一を呼ぶ。
    佑一はすぐに部屋から出てきた。
    相変わらず機嫌が悪いようで、無言でリビングに向かう。

    結は急いで飲み物の用意をする。

    「佑一さん、痩せたんじゃない?ちゃんと食べてるの?」
    「食べてるよ」

    佑一は素っ気無く返すが、佑一にとって母親は絶対的存在で、心から崇拝し服従していた。
    威圧的でプライドが高く、見るからに強いといった女性を佑一が好むのはこの母親が原因といって
    過言ではなかった。

    結は黙ってお茶を差し出す。

    「結さん」

    佑一の母はこんなもの飲めるかといわんばかりに湯呑みをすい・・・と手で遠ざけた。

    「はい・・・」
    「あなた、どうして嘘をついたんです?」

    結はなんて言えばいいの迷い、佑一に助けを求めようとしたが、佑一は自分は関係ないと言わんばかりに
    ソファに深く座り腕を組んで目を閉じていた。

    「あの・・・実は・・・仕事で・・・・」
    「仕事?」

    思わず仕事と口にしてしまったが、それが一番良い理由の気がして結は続けた。

    「・・・はい。急遽、会社でトラブルがあってその対応がありまして・・・。福島には行こうと
    思っていたんですが、行けなくなってしまったんです。佑一さんもそれなら一緒に家にいようって
    言ってくれたので・・・。ご連絡さしあげなくて申し訳ありませんでした」

    結はつじつまが合うかどうかわからないまま嘘をついた。賭けだった。
    佑一の母は結の話に納得がいっていないようだったが、佑一を見て話しかけた。

    「それなら佑一さんだけでも帰ってきてくれたら良かったのに。お母さん帰ってくるの待ってたのよ?」

    佑一は何も言わず、目を瞑っていた。
    どうやら結の嘘を信じてくれたようだった。結はとりあえずしのげたことにホッとする。

    「結さん」
    「は、はい」
    「あなた、いつまでそのお仕事続けるおつもり?」

    佑一の母親がきつい口調で問いかける。

    「いつまでって・・・。今のところ辞めるつもりはありませんが・・・」

    結の言葉に佑一の母ははぁーっと大きなため息をついた。



    「まったく、子供も作らず仕事ばっかりして・・・。時代だかなんだか知りませんけどね、本来は子供を
    産んで育てるのが女の仕事です。第一、あなたがそうやって働いていたら、佑一さんのお給料だけで食べて
    いけないみたいじゃないの。世間様に恥ずかしいったらないわ」

    佑一の母親はとげとげしく結に嫌味を言った。

    子供もなにも、佑一はセックスしてくれないではないか。
    子供もいなくて、家に帰らない夫との生活に、結が仕事を辞めたら何が残るというのだろう。

    まるで何もかも結がいけないかのように言われ、心の中で違うと訴えてみても、それを口にすることは
    できなかった。

    「すみません・・・」

    結は謝るしかできなかった。自分が悪者になるのが一番楽な解決法だということを知っていたからだ。

    「佑一さんはうちの大事な跡取り息子なんですから。仕事なんかさっさと辞めて子供を産みなさい。いいわね」

    そう言うと立ち上がって佑一の肩にそっと手を添えると、甘ったるい声で話しかけた。

    「佑一さん、何かおいしいもの食べに行きましょう。さ、支度しなさい」

    佑一はようやく目を開け、立ち上がると、結のことを見ることもなく母親と家を出ていった。

    一人取り残され、結は床にしゃがみこんだ。

    (とりあえず・・・終わった・・・)

    結は純也のことを想った。

    一緒に過ごしていた時間が夢のようだった。

    破綻している佑一との夫婦生活。それでも離婚することをすんなり考えられる状況ではなかった。

    それでも今の結にとって、純也だけが救いだった。心の拠り所だった。



    「・・・よし、あとは最後のとこで終わりだな。あー腹へった〜」
    「すみません。私のせいで・・・」
    「気にすんなって。俺のせいでもあるんだから」

    広いオフィスで結は純也とリリースの手順計画を作り直していた。
    結が提出した計画書は抜けが多く、チームリーダーにこっ酷く叱られ、一緒に作業する純也に見て
    もらいながら一緒に作り直せと言われたのだった。

    もう夜の11時になる。フロアには結と純也以外に、遠く離れた場所にあるサーバー1台を囲んで三人の男性が
    作業していたが、今はどこか別の場所に行っているようで不在だった。
    二箇所を除いて電気は全て消されていた。

    結は落ち込んでいた。今までこんなにも怒られたことはなかったし、純也を巻き込んでしまったことも
    申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

    結のパソコンを二人で見ながら作業を進める。
    小さくため息をついた結を純也はチラと見るとそっと結の太ももに手を伸ばす。

    「!」

    ハッとして純也を見ると、純也がニヤニヤ笑っている。

    「あの・・・高科さん・・・」

    結は純也からさっと離れるが、純也はすぐに近寄り間合いを詰める。

    「ちょっと・・・!」
    「誰もいないよ」
    「そういう問題じゃありません!」
    「そう?」

    純也はとぼけながら結の椅子の背もたれに腕をまわし、結が逃げないようにしっかりと掴むと結の耳たぶを
    カプ、と咥えた。

    「高科さん!」
    「シー・・・。そんな大声出したらダメでしょ?」

    純也の手がスカートの中に滑り込む。

    「やめてください!怒りますよ!?」
    「そうだね、少しだけ少しだけ」

    純也の手が結の閉じた足の隙間に入り、指先がツンと結の敏感な部分にあたった。

    「・・・・っ!」
    「足、開いて」

    純也が耳元で囁く。
    いくら二人きりとはいえ、会社でこんなことをしていいはずがなかった。
    結は抵抗したが、純也の優しい囁きと、指の動きによる誘惑に勝てそうにないことを知っていた。

    純也が人差し指ですっと割れ目をなぞる。
    結はビクっと体を震わせた。

    「ほら、あとは日付と時間入れるだけだろ?早く入力しないと」

    (そんなこと言われたって・・・)

    結は言われた通りカタカタとキーボードを鳴らして日付を入力する。

    結は誰かに見られたらと気が気じゃないという気持ちの反面、イケナイことをしているのだという事実に
    興奮していた。

    コリ・・・・

    (あっ・・・)


    純也が結のクリトリスを探りあて、ショーツの上からコリコリと刺激した。
    思わず純也の手を太ももで挟む。
    それでも純也は指先を動かし続けた。

    「結のクリ・・・硬くなってる」

    仕事中にそんなことを言われて、結は恥ずかしさと興奮でカアっと赤くなった。
    ショーツの隙間から純也の指が入り込む。

    クチュ・・・

    「純也くん!本当にやめて!!」

    結は純也の手首を掴んで、囁き声で制止した。

    「そんなこと言ってるけど、結、すごく濡れてるよ?会社だから興奮してんだろ?」

    そう言って、床に片膝をつくと、結の両足を掴んでグイと広げた。

    「な・・・!?」

    スカートが捲りあげられ結の素足が露になる。

    「うわー。スケスケの下着なんて・・・いやらしー。期待してた?」
    「そんなわけありません!ねえ、純也くん、本当に・・・」

    レロ・・・

    「・・・・ッッ!」

    純也が白い透けたレースの下着をずらして結の濡れて光っている割れ目に舌を差し込む。
    純也が舌を離すと、ツ・・・と愛液が糸を引いた。

    「ほら・・・こんなに濡れてる・・・」

    純也が結の割れ目をグイと開くと、プリ・・・とクリトリスのピンク色の芯が現れた。
    純也の舌がそれをクリュ・・・と舐め転がす。

    「ぁ・・・・ッッ!!」

    スーツ姿の純也が、会社でクリトリスを舐めている・・・。しかも自分の席で・・・。

    (うそ・・・。こんなことって・・・)

    結はスリルと背徳感と共に与えれる快感にいつも以上に興奮していた。

    クリクリ・・・ヌルヌル・・・

    結は純也の舌使いの気持ちよさに、思わずクイクイと腰を浮かす。
    純也は舌先を尖らせてなおも刺激する。

    「ぅぅ・・・・っ!」

    結はあまりの気持ちよさに声を抑えるので必死だった。




    ガチャ!

    その時、遠くのサーバーで作業していた男性三名がオフィスに戻ってきた。

    「じゅ、純也くん!戻ってきたよ!」

    結は声を抑えて純也に告げるが、純也はやめる様子はなかった。

    「純也くんってば!」
    「大丈夫、すぐ帰るから」

    そう言って指を二本、結の中に差し込む。

    グチュ・・・!

    「・・・・ッ!!」

    いくら遠く離れているからといって、おかしな声でも出せば気がつかれてしまう。
    結は上半身をPCに向けて、作業しているフリをした。
    純也が言うように、三人は帰り支度を始めた。

    (お願い!早く帰って・・・!!)

    純也は二本の指をグチュグチュと出し入れしながら、クリトリスを舐め転がす。
    音が聞こえてしまうのではないかと気が気ではない。
    むしろわざと音がたつようにしているのではないかと疑うほどだった。

    結の興奮は更に増し、愛液がタラリと流れる。

    クチュ・・・クチュ・・・ヌロ・・・・

    (もう・・・!そんなにしたら・・・・っ!)

    結の体の芯が燃え上がり、快楽の波が押し寄せてくる。

    三人のうちの一人がチラと結の方を見てお先ですと頭を軽く下げた。
    結は表情を硬くして、お疲れさまですと何とか返事をする。

    三人が出て行こうとした時、純也がチューっと強めにクリトリスを吸った。

    「!!」

    突然の強い刺激に、結は自分でも予想外にあっという間に絶頂を迎えた。

    バタンと扉が閉まる音がする。三人が外へ出たと同時に結は体をピクンピクンと揺らした。

    「あ・・・はぅ・・・」
    「会社でイッちゃったね」

    純也は立ち上がると、意地悪そうに笑って自分の指をレロ・・・と舐めた。

    結は涙目で純也を睨む。

    「意地悪・・・」

    純也はそんな結を見て微笑み、椅子に座ると、結の手を取って引き寄せた。

    「まあまあ、そう怒らないで」

    そう言って、ベルトを外し、ジッパーを下げて硬く反ったペニスを取り出した。
    結は黙ってポーチの中からコンドームを取り出して純也に渡す。純也とセックスするようになってから結は
    ゴムを持たされていた。
    純也は慣れた手つきでゴムを装着する。

    「乗って」


    結はもうとっくに純也のペニスを欲していた。
    会社だということも忘れ、迷わず純也の上に跨る。

    グプ・・・ヌヌヌ・・・

    「あ・は・・・んん・・・!」

    ゆっくりと純也を迎え入れるが、あまりの気持ちよさに再び達しそうになる。

    「あ・・・!純也くん・・・・!」
    「なんだよ。もうイッちゃうの?」

    純也が結の腰を掴んで前後させる。

    「あ!だ、だめ!動いたら・・・!」
    「結のいやらしい声、もっと聞かせて」

    結は純也の首にしがみついて、耳元で自分でなんていやらしいのだと思うほど艶めいた声を上げる。

    「あ!あ!あ・はン!ん!ん!!」

    グチュグチュ!と結の中から大量の愛液が溢れ出す。

    純也の大きな手が結のお尻を鷲掴みにしてグイグイと動かす。
    結も気持ちよさに任せて腰を動かす。二人のリズムが合わさり、ギシギシと椅子が軋む音が立つ。

    純也が快楽に歪んだ結の顔を見上げる。

    「結・・・可愛いよ・・・」

    純也が結に深くキスする。
    ヌル・・・と舌が絡みつく。純也の舌は熱かった。

    「ふ・・・んん・・・ッッ!!」

    純也は手の動きを止め、丹念に結の唇を味わった。
    そこまで来ていた快楽の波が遠のきそうになり、結は一人腰を動かした。

    ぬちゅ!ぐちゅ!ぐちゅ!

    (あ・・・もう・・・)

    「そんなに腰動かしてエロいなぁ」

    純也が唇を離して耳元で囁く。

    「あ!あ!また・・・・!」
    「イクときは『イク』って言って」

    純也が再び動き出す。

    「あぅッ!あン!あ!あ!イキそぉ・・・・ッッ!!」

    結は目をぎゅっと瞑り、純也にしがみつく。
    純也の恥骨にクリトリスがあたり、擦れて快感が増す。

    「んーーッッ!!んん〜〜ッッ!!だめぇ!イッちゃう・・・ッッ!!〜〜〜〜ッッッ!」

    結の体がガクガク!と激しく揺れ、きゅぅぅっと純也を締め付けた。

    「・・・・っ」

    純也は動きを止め、結を抱きしめる。
    結の体は引き続きピクンピクンと痙攣し、その度に膣が締まる。
    純也もしばらく動かず二人で余韻に浸った。

    純也が結の顔を覗き込む。
    結は恥ずかしさを誤魔化すために純也を睨んで言った。

    「もう・・・強引すぎるってば・・・!」
    「そんなこと言って、二回もイッたじゃんか」

    純也がニヤニヤと笑う。
    ふて腐れて離れようと結の腕を掴んで、純也はもう一度丁寧に結にキスした。
    繋がったまま長いキスをする。

    「結・・・好きだよ・・・」

    キスの合い間に純也が囁く。

    純也はセックスの後もこうして長くキスしたり、抱きしめてくれたりする。結はそれがとても好きだった。

    (やっぱり・・・この人がすごく好きだ・・・)

    日に日に純也への想いが強くなっていく。
    結は佑一への後ろめたさを感じながらも、佑一だって浮気しているのだと自分を正当化してみたり、
    深く考えないようにしていた。

    純也との恋愛を純粋に楽しみたい・・・。

    そう想いながらも、いつまでも逃げていられないということもわかっていた。
    離婚の文字が頭に浮かんでは、父や母、佑一、佑一の両親のことを考えて行き詰る。
    それの繰り返しだった。

    そんな時に事件は起きたのだった。


    「結〜」

    友人の瑛子が結の席にダルそうに近づいてくる。定時をちょうど過ぎた時で、結は帰り支度をしていた。

    「あれ?もう帰るの?最近早いよね」
    「うん・・・」
    「じゃあ、今日はダメか。ねえ、明日空いてる?秋の彼氏のお店に三人で行ってみない?」
    「秋ちゃんの?ああ、確かどこかのバーのオーナーだったっけ?」
    「そうそう。麻布十番にあるんだって。どう?明日」

    明日は金曜日だ。週末だし、少しなら大丈夫だろう。

    「いいよ。明日ね」

    そう返事をしてすぐに会社を後にした。

    最近佑一の帰りが早いのだ。と言っても月曜日からの話で、たった3、4日のことなのだが、夕飯を
    作らなくてはいけないので結はなるべく早く帰るようにしていた。
    平日に夕食を一緒に食べることなど久しくなかった。会話はほとんどなく、食べ終わったらさっさと
    自室に篭ってしまう佑一だったが、それでも食事はちゃんと残さず食べるのだった。

    彼女と喧嘩でもしたのだろうか・・・。

    ずっと帰りが遅く、家にほとんどいない生活を送ってきただけに、結は佑一の行動が奇妙に思われて
    仕方がなかった。

    近くのスーパーで買い物をして帰る。佑一はもう家に帰っていた。
    本来、佑一の職場は残業などほとんどない職場なので、彼女との時間がなければ真っ直ぐに家に帰って
    くるのだった。

    結は急いで夕飯の準備をする。
    佑一は珍しくワインを一本買ってきており、一人で静かに飲んでいた。

    食事が始まった時には既にかなり酔っ払っているようだった。
    料理にあまり手をつけず、ひたすらワインを飲み続ける。

    結はなんか変だなと思いながらも黙々と食事を続けた。

    「おい」

    突然佑一が声をかける。なんだかイライラしているような、怒っているような声だった。
    「脱げよ」
    「・・・・え?」
    「脱げって言ってんだよ」

    目を見ると、完全にすわっていた。
    ゾクリと背筋に悪寒が走る。

    「脱げって・・・」

    結は佑一がどうしてそんなことを言うのか理解できず、苦笑いして誤魔化そうとした。

    すると佑一は突如立ち上がり、結の腕を掴むと床に力任せに押し倒した。
    あまりの力強さに結は頭をガツンと床にぶつけた。

    「い・・・った・・・」

    佑一が結のシャツの襟を掴み、思い切り引っ張る。ブチブチブチ!と飛び散った。

    「佑一さ・・・何するの!?」

    佑一はブラをグイと引っ張り、露になった胸を乱暴に揉みしだいた。

    「痛・・・ッ!!佑一さん!やめて!!」

    結は暴れて佑一から逃れようとした。

    「何がやめてだ。夫婦なんだぞ。この前は子供がほしいって言ってたくせに」

    佑一がスカートを捲り上げ、下着に手をかける。

    「いや・・・!お願いだからやめて・・・」
    「うるっさいなぁ!少しは黙れよ!」

    佑一はソファの前においてあるテーブルのテーブルランナーを掴み、結の口の中に捻じ込んだ。

    「!!」

    暴れる結の両手を合わせて左手で掴むと、右手で力任せに下着を剥ぎ取る。

    「んーーーっ!」

    結は足をバタバタと動かし、佑一を蹴った。
    それがちょうど鳩尾に入ったらしく、佑一は低く呻いて動きを止めた。

    逃げようと結が思ったその時だった。

    バチン!!

    火のような熱い感触が頬に走る。
    佑一を見ると、怒りで目が釣り上がり、歯を食いしばっている。

    殺されるのではないかという恐怖が一瞬走る。
    結はガタガタと震え、力を入れることができなかった。

    佑一はお情け程度に唾を結のあそこに塗りつけると、すぐさまペニスをそこにあてがった。

    「うぐ・・・!」

    全く濡れていない結のそこは、佑一に強引に入り込まれ、痛さで悲鳴を上げた。

    (助けて!誰か助けて・・・!!)

    結は心の中で叫ぶが、もちろん誰も助けになど来てくれない。

    佑一は単調に、動物的に、一人でオナニーするように腰をカクカクと動かす。
    まるで相手は結でも誰でも関係ないといったかのようだった。

    擦れてジンジンと痛みが増す。結は人形のように無表情になり、涙を流して少しでも早く終わることを願った。

    「う・・・うぅ・・・」

    佑一はイキそうなのか、腰の動きを早めて唸り声を上げ始めた。
    出入り口は擦れて痛いというのに、子宮の奥は疼き始め、少しずつ愛液が流れ出す。

    クチュ・・・クチュ・・・!

    (嘘・・・嘘だ・・・!こんなの・・・・)

    結はこんな風に抱かれてまで、感じている自分の体を呪った。
    それだけではない。純也と佑一、二人の男のペニスを平行して受け入れている自分の体を汚らわしいと思った。

    「うう・・・!うーー・・・!!」

    佑一はイキそうになる直前に、結からペニスを引き抜くと、手でしごいて最後を迎えた。
    ドピュ!ドピュ!と精液が飛び出し、結の足にかかった。

    佑一はしばらくはあはあと息をしながら膝立ちの状態で、結を見下ろした。
    汚いものでも見るかのような、冷たく蔑んだ表情だった。

    結に何か声をかけるでもなく、そのまま立ち上がりバスルームへ向かっていった。



    取り残された結は茫然と天井を見上げた。
    足にかかった佑一の精液が生暖かく、その気持ち悪さに早く拭い去りたいと思うのだが体が動かない。

    とめどなく涙が流れる。

    こんなものはセックスと呼べない。
    こんな夫婦生活など、続けていてなんの意味があるのだろう。

    純也の顔が浮かぶ。
    純也のもとに逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。

    (お父さん・・・お母さん・・・私、もうだめ・・・)

    結は一晩中泣き続けた。


    次の日、結は会社を休むことにした。
    佑一に打たれた頬も泣きすぎた瞼の腫れも冷やしたおかげでだいぶ赤みは引いたが、会社に行く気が
    しなかった。

    佑一は何事もなかったかのように家を出ていった。
    それでも夕方になればこの家に戻ってくるのだ。
    結は日中ぼーっと過ごしていたが、日が落ちるにつれ再びあの恐怖を思い出し、佑一が帰ってくる前に家を
    出た。

    その時にようやく瑛子からメールがきていたことに気がつく。

    『体調悪いの?大丈夫?看病しに行こうか?』

    瑛子のメールを見て小さく笑った。瑛子は普段気が強いが、病人や怪我人に対しては妙に優しかった。
    結が生理痛で辛い時などとても気遣ってくれるし、こうやって会社を休むといつも心配して看病に
    行こうかと言ってくれる。

    (そういえば・・・今日は秋ちゃんの彼氏のバーに行く予定だったっけ・・・)

    『ありがとう。大丈夫だよ。今日、秋ちゃんの彼氏さんのとこに行くんだよね?私も今から行きます』

    メールを返信すると、すぐに瑛子から電話がかかってきた。

    「もしもし?」
    「なによ、仮病?」

    瑛子が少しからかったような口調で言う。

    「ごめん、でも、ちょっと会社行きたくなくて・・・」

    結の様子で何か察したのか、瑛子はそれ以上何も聞かなかった。

    「じゃ、うちらももう会社出るから。麻布十番の駅で待ち合わせね」
    「わかった。じゃあ、また後で・・・」

    瑛子と秋に会って、相談したかった。
    自分ひとりではどうしようもできないほどに行き詰っていたのだった。

    秋の彼氏のバーは駅から少し離れた大通り沿いのビルの地下にあった。
    7時過ぎたぐらいだというのに客でいっぱいだった。
    長めのカウンターと黒いレザーのソファがいくつか並び、グランドピアノが置いてある。

    「へ〜。素敵なお店ね」

    瑛子は店内を見渡して言った。
    秋はカウンターにいる店員に声をかけてから結と瑛子を一番奥のソファの席に案内した。

    「秋の彼氏は?」

    瑛子は待ちきれないといった風に秋に尋ねる。

    「今来るって」

    秋は少し落ち着かない様子だった。友達に彼氏を紹介するのは初めてらしい。
    飲み物をそれぞれ頼む。

    「結ちゃん、体調大丈夫なの?」

    カクテルを頼んだ結を心配そうに秋が見つめる。

    「ありがとう。もう大丈夫なの」

    結は少しぎこちなく笑って答えた。

    「どうせ旦那と何かあったんでしょ?」

    瑛子が冗談めいて言う。結は思わず表情を暗くした。

    「あ・・・ごめん」

    瑛子は結の顔を見てすぐに謝った。

    結はううんと弱々しく言った。今日は祐一とのことを相談しようと思っていたのに、昨日のことを
    思い出すだけで言葉が出てこない。


    「お待たせしました」

    ヒゲをはやした背の高い痩せた短髪の男性がトレーにグラスを乗せてやって来た。

    「こんばんは。秋がいつもお世話になってます」

    にこやかに微笑んで結と瑛子を見つめる。

    「河内蓮です。よろしく」

    40歳を超えた男の魅力満載の色っぽい男だった。

    結と瑛子ははじめましてと遠慮がちに頭を下げる。

    「蓮も一緒に飲むよね?」

    秋は蓮が来てとたんに表情が可愛らしくなった。蓮と会えて本当に嬉しいというのが伝わってくる。

    「少しだけね。この後行くところがあるから」

    蓮はそう言うと秋の隣りに座って、秋の肩を抱いた。
    結と瑛子はその様子を見てドギマギしたが、二人はあまりに自然で、人目を気にする様子ではなかった。

    「あのー・・・。蓮さんと秋って、付き合い始めたきっかけって何なんですか?」

    瑛子が興味津々といった様子で尋ねる。

    「僕がこの店に来た時に突然声かけられたんだ」

    秋は少し照れて笑った。

    「私の一目惚れだよ。すぐにデートに誘ったんだ」

    蓮が秋の肩を優しく撫でる。

    「え〜っ。それって、その・・・ノーマルだったらどうしようとか思わないんですか?」
    「そういうのはなんとなくわかるものだよ。それに、もし秋がノーマルでも口説き落とす自信はあったね」
    「すごーい。どうしてです?」
    「ははは、何もすごくないよ。どうしてもこの子が欲しかった。ただそれだけさ」

    蓮は冗談なのか本気なのかわからないような口調で言った。
    秋は嬉しそうに微笑んだ。

    「ふーん・・・。秋って愛されてるんだねぇ」

    瑛子がニヤニヤしながら肘で秋を突っつく。秋は恥ずかしそうにやめてよと瑛子の腕を軽く叩いた。

    「蓮さんは、秋ちゃんのどんなところが好きですか?」

    結は何気なく質問した。

    「どんなところ・・・。そうだなぁ。セックスがいいね」
    「・・・!」



    蓮の明け透けな答えに結も瑛子も驚いて一瞬言葉を失った。

    「ちょっと!蓮!やめてよ、二人とも驚いてるじゃないか!」

    秋が顔を真っ赤にして怒る。

    「二人とも、ごめんね。この人、なんていうか・・・海外生活が長いからか、こういうこと平気で言うんだ」

    秋が慌てて二人に謝る。

    「海外生活なんて関係ないよ。セックスの話をすることがイケナイことや下品なことだとは思わないけどなあ。
    まあ、それはそれとして・・・。セックスがいいってことは当然心も許してることになるから、私にとって
    愛情表現の最上級なんだけど。・・・だめ?」

    蓮は悪びれもせず言って、秋の顔を覗き込んだ。

    「別の表現方法だってあるだろ?」

    秋は怒っているように振舞っているが、内心嬉しそうだった。

    「ストレートでいいじゃないか。相手を気持ち良くさせたい、自分も気持ち良くなりたい。
    余計な概念が吹っ飛んで、一番正直な自分になる。その行為が今までの誰よりも素晴らしいと思えて、
    死ぬまでこの子を抱きたいと思う」

    結は蓮の言葉に衝撃を受けた。

    セックスが愛情表現の最上級・・・

    純也とのセックスがあんなに気持ちがいいのは、純也に心も体も許していることに他ならないのだ。

    「じゃあ、セックスしなくなったカップルは、愛し合っていないと思いますか?」

    結の突っ込んだ質問に秋も瑛子も驚いていた。
    蓮はわずかに微笑みながら、まっすぐ結を見つめた。

    「私の場合に限って言えばそうだね。まあ、いつか勃たなくなって、完全なセックスは果たせなくなる時は
    来るかもしれないけど、エクスタシーを感じられなくても体を求めることはやめないだろうね。

    もちろん、世の中にはセックスしなくても愛し合ってる人たちは沢山いる。
    それがその人たちにとっては一番良い形なんだから、それで良いと思うよ」

    蓮の言葉が結の心に染みた。
    佑一にされたことを思い出す。
    やはりあれは愛するもの同士の行為ではなかった。

    「結ちゃん、君、好きな人がいるんだね?その人とのセックスはどう?」

    蓮は優しい口調で尋ねる。

    「すごく・・・いいです・・・」

    結は純也のことを思い出し、正直に答えた。

    「死ぬまでその人とセックスしたいと思うだろ?」

    結は純也のことを思い出した。いつもエクスタシーを迎える瞬間、イキたくないと思う。
    ずっとずっと純也とセックスしていたいと思う。
    それが今の正直な気持ちだった。

    「はい。思います」
    「結ちゃん・・・」
    「結・・・」

    瑛子と秋が結を労わるように見つめた。



    瑛子と秋が結を労わるように見つめた。

    「そう思える人ってのはそうはいないんだ。大切にしなよ」
    「はい・・・」

    蓮は頷く結を見て二コリと笑った。

    「可愛いなぁ。結ちゃんが男だったら、間違いなく家に連れて帰っちゃうね」
    「蓮!何言ってんだよ!」

    秋が怒って蓮の胸を叩く。
    蓮はハハハ!と笑って、もう行かないとと言って立ち上がった。

    「二人ともまた来てね。今日はおごりだから、好きなだけ飲んでいって」

    そう言うと、秋の頬にキスして耳元で何か囁いてから去っていった。

    「なんか・・・パワフルな人ね・・・。大人なんだか子供なんだか・・・」

    瑛子がため息をつきながら言った。

    「子供なんだよ」

    秋がカクテルをぐいっと一気飲みした。ようやく一息つけたらしい。

    「んふふ。素敵な人じゃない。秋が蓮さんのこと大好きってことが充分伝わったわ」

    瑛子がニヤニヤと笑いながら秋をからかった。

    「本当・・・秋ちゃんととってもお似合いだった。お互い、大好きなんだなぁって・・・」

    結はしみじみと言った。

    「結ちゃん、例の人のこと、好きなんだね・・・。やっぱり」

    秋は結のことを心配そうに見つめて言った。

    「うん・・・」
    「そう・・・。佑一さんはどうするの?その・・・別れるつもり?」

    結は今悩んでいるのだと口にしようとした。

    「離婚なんて、やめた方がいいわよ」

    瑛子が突然鋭い口調で言った。

    「なんだよ、この前は離婚して堂々と付き合えとか言ってたくせに」

    秋が少し驚いて言った。

    「本気になって離婚したとこで、相手の男はまた同じことするのよ。結を捨てて他の女のとこに行くに
    決まってる」

    瑛子の表情が険しくなる。誰かを恨んでいるかのような顔だった。

    「それは瑛子がしたことじゃないか。略奪しといて、自分のものになったと思ったらつまらなくなって
    捨てたんだろ?瑛子の場合と一緒にするなよ。もっと結ちゃんのことを考えて・・・」
    「考えてるから言ってるのよ!」

    瑛子が声をあげたので、秋は驚いて口を噤んだ。

    「つまらなくなって捨てたなんて嘘よ・・・!格好悪いから嘘ついたのよ。離婚して自由になったと思って、
    あいつ、すぐ他の女のとこに行ったのよ。私・・・結婚するつもりだった・・・。
    これでやっと一緒に暮らせるんだって思ったのに・・・」

    瑛子はシクシクと泣き始めた。

    「瑛子・・・」

    結は瑛子の肩にそっと手を置いて、優しく撫でた。

    「辛かったんだね・・・。気付かなくてごめん・・・」
    「結には幸せになって欲しいよ。でも、離婚したからって幸せになれるかなんてわからないじゃない・・・」

    瑛子は泣きじゃくりながら言った。
    結は瑛子の気持ちを汲み取って、胸が熱くなった。

    「馬鹿だな・・・なんでそんな嘘つくんだよ・・・」

    秋は瑛子に近づいて瑛子の頭を右手で優しく包むように抱えた。
    秋がごめんと呟くと、瑛子は声を殺して秋の胸で泣いた。

    そんな瑛子を見て結は思った。

    (そうか・・・。純也くんを『逃げ場』にしちゃいけないんだ・・・)

    純也のことは好きだ。愛してると言ってもいい。
    しかし、純也がいるから佑一と別れようと考えてはいけないのだ。

    佑一と自分との関係はとっくに破綻している。
    それを受け入れて、たとえ純也がいなくても、一人で生きていく覚悟が必要なのだ。

    佑一と自分の関係に焦点をあてる・・・。
    結果はわかりきっていた。

    もう、これ以上一緒に暮らしていても意味がない。
    佑一と話をしよう。
    今まで肝心な部分には何一つ触れずに過ごしてきた。

    (佑一さんと話そう・・・。離婚という結果になったとしても・・・。強くならなきゃだめなんだ)


    店を出て、駅へ向かって歩く。

    「秋ちゃん、瑛子、今日はありがとう」
    「ううん。私こそ、泣きまくっちゃって・・・ごめん」

    瑛子が照れくさそうに笑う。目のまわりが赤くなって、痛々しかった。

    「結ちゃん、またいつでも話してね。いつでも聞くから・・・。一人で悩んだらだめだよ」
    「うん」

    大通りを渡ろうと、信号待ちをしている時だった。

    「・・・あれ?ねえ、あそこ、あのタクシーのとこ・・・高科さんじゃない!?」

    高科という言葉にハッとする。
    見ると、純也が大通りを渡った向こう側で、女性とタクシーの前でなにやら話をしていた。

    「本当だ・・・。あの女の人、奥さんだよ」

    秋の言葉にドキリとする。

    (あれが・・・純也くんの奥さん・・・)

    「何で知ってんの?」

    瑛子はジロジロと純也たちを眺めて言った。

    「何でって、僕、結婚式の二次会呼ばれて行ったから。その時は一緒のプロジェクトで
    お世話になってたからね」
    「そうだったんだ。すごい綺麗な人ね。あー、あれシャネルのワンピースだぁ。素敵〜」

    結はドキドキして言葉を発することができず、ただ二人の姿を見つめた。
    純也は穏やかな表情をしている。純也の妻はニコニコしており、とても仲良さそうに見えた。

    純也の妻はタクシーに乗り込もうとする。どうやら純也は乗らないらしい。
    純也の妻が一瞬動きを止める。右手を純也の首にまわしておもむろにキスした。

    「・・・・!」

    かなり深いキスだった。
    通り過ぎる人たちもチラと二人を見ている。

    「うわ・・・すご・・・」
    「おい、瑛子!じろじろ見るなよ!」

    結はショックで動くことができなかった。

    キスが終わり、純也は少し困った顔をしていたが、純也の妻が何か言うと笑い出した。

    その様子を見て、結は更にショックを受ける。
    仲の良い夫婦にしか見えなかった。

    純也が自分にむかって囁いた愛の言葉が途端に色あせていく。

    信号が青になり、人々が歩き出す。

    「結!行くよ!」

    瑛子に呼ばれ、ハッとする。
    結たちが横断歩道を渡り終わった時、純也の妻を乗せたタクシーは動き出し、純也はそれを見送っていた。

    「瑛子!見すぎだよ!ほら、こっちから帰ろう・・・」

    秋は純也に気を効かせて、鉢合わないようにしようとしたのだが、あまりに瑛子がジロジロみていたせいで
    純也が結たちの姿に気がついた。
    結を見て驚いた顔をしている。

    「あ・・・高科さん、お疲れさまです」

    純也が気を使って自分から声をかけた。

    「お疲れ・・・」

    「高科さん、今の人奥様なんですよね?綺麗な方じゃないですか〜」

    瑛子がむふふと笑いながら言った。

    「ああ・・・いや・・・」

    純也は焦って何か説明しようとしていたが、うまく言葉が出てこないようだった。


    結はうつむいた。純也が自分を見ている視線を感じるが、顔を上げることができなかった。

    「じゃ・・・僕達これで・・・」

    秋が遠慮がちに切り出す。

    「お疲れさまで〜す。また月曜日に。結、行こ」

    瑛子が結の手を掴んで歩き出す。

    「桜井・・・」

    純也の声は瑛子や秋には届いていなかった。結だけがその悲しげな声を聞いた。

    結は今すぐにでも純也に言い訳して欲しかった。
    言い訳して、いつもみたいに好きだと言って欲しかった。

    夫婦なのだからあたりまえと言われたらそれまでだ。
    しかし、あんなにも自分を愛してくれていると信じていた純也が、『自分だけではなかった』のかと思うと
    胸が張り裂けそうだった。

    瑛子と秋と別れて、最寄り駅に着いた時に、やっと携帯を見る。
    純也からの着信が何件もあった。

    再び純也から電話がかかる。結はじっと携帯を見つめた。

    「・・・もしもし」
    「結・・・」

    純也は、結が電話に出てくれたことにホッとしているようだった。

    「さっきのことだけど・・・」
    「さっきって?さっきのことって何?」

    結は口調がきつくなるのを感じながら、止めることができなかった。

    「・・・キスしたの、見たんだろ?」

    純也の言葉に胸が締め付けられる。

    「見たよ。見たけど、それが何?」

    自分でもなんて冷たい言い草なんだと思うほど、口調がきつくなる。

    「ごめん、でも、あれは・・・」
    「私もセックスしたから」

    嫉妬のあまり、結は言うつもりもない事を口にした。

    「え・・・?」
    「私も主人とセックスしたから。夫婦なんだし、そういうの、いちいち気にしないでいいから」

    純也は黙り込んでしまった。
    沈黙が続く。

    (違う・・・!こんなこと言いたいんじゃないのに・・・!)

    激しい嫉妬。
    純也も傷つけばいいと思った。

    「さよなら・・・」

    結は沈黙に耐え切れずに電話を切った。

    純也が好きだ。激しく嫉妬するほどに好きだ。
    佑一との強姦のようなセックスのことを持ち出してまで、純也を傷つけたいと思った自分が情けなかった。

    どうして純也は自分だけのものではないのだ・・・。
    私だけを愛して欲しいのに・・・!

    家に着くと、佑一はまだ帰ってきていなかった。
    携帯を見る。純也からかかってくることはなかった。

    佑一が浮気をしていると知った時ですら、こんなに激しい嫉妬を感じることはなかった。
    それなのに・・・

    結は今まで感じたことのない激しい感情で、胸が締め付けられた。




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