社長秘書 二人の誓い


  • 「お見合いですか!?」
    「うん・・・。母がしろってうるさくて・・・」

    遥が身を乗り出して由加子の話に聞き入っている。

    「で!?するんですか!??」
    「しないって断ったんだけど、今度は良い人がいるなら連れてこいってうるさくて・・・」
    「社長は!?社長は何て言ってるんですか!??」

    圭吾が入院したことで、由加子と圭吾の関係が遥にばれて以来、遥は圭吾とのことを質問攻めしてくるように
    なった。

    今、圭吾は仕事で上海に行っていた。しかし、いくら二人きりとはいえ、誰が聞いているかわからない。
    由加子は慌ててシー!と指を唇にあてて遥を制した。

    「・・・すみません。教えてくださいよ〜。社長は何て・・・!?」
    「まだ・・・何も言ってないから」

    由加子は内心ため息をついた。

    (母に会ってくださいなんて・・・言えるわけないわ・・・)

    圭吾と由加子の関係は良好だった。圭吾は忙しい中でも二人の時間をきちんと取ってくれたし、喧嘩を
    することもなかった。

    二人がお互いを深く愛し始めてからそう時間が経っていないが、由加子には圭吾といつか一緒に
    なりたいという気持ちが強くあった。

    圭吾にしてみても、由加子を充分愛していることが伝わってくるのだが、結婚を考えているのかどうかまでは
    わからなかった。

    圭吾は『家庭』に落ち着くタイプではない気がするからだ。

    会社が一番ということもあるが、父親に必要以上に厳しく育てられた圭吾は家庭が心休まる場所とは思って
    ないのではないかと由加子は考えていたのである。

    家やら籍やら、面倒なことは除いて、パートナーとして由加子と一緒にいることがベストと思っている気が
    してならなかった。

    由加子が結婚してほしいと言えば、離れていってしまうかもしれない。
    もしそんなことになったら・・・と、怖くなり、結婚の話を出したことなど一度もなかった。

    「社長も、さっさとプロポーズしてくれたらいいのに。何をもったいぶってんだか」

    まるで自分のことのように愚痴る遥を見て由加子は思わず笑った。

    それでも・・・。

    母を安心させたいという気持ちが強くあった。
    婚約破棄された由加子の未来をずっと案じているのだ。

    父が亡くなった今、孫を抱くことを楽しみにしているのだと繰り返し言う母に、何と説明したら良いのか、
    由加子は悩んでいた。


    圭吾がいないのもあって、二人は定時で退社する。
    家につくとすぐに圭吾から電話があった。上海にいる間、こんなに早くに電話がかかってくることなど
    なかったので、驚きながら電話に出る。緊急の仕事の要件かもしれない。

    「もしもし、どうかなされましたか?」
    「聞いてないぞ」
    「え?何がです?」
    「見合いの話だ」

    由加子は小さく、あ・・・と声を出した。
    遥がわざわざ社長に報告したのだ。
    由加子が慌てて弁解する。

    「あの、別にお見合いするわけじゃないんです。しろって言われてるだけで・・・」
    「同じことだ。君の母君が心配してるんだ。そうだろ?」
    「・・・・はい」

    圭吾は電話の向こうで何か考えているのか黙ってしまった。

    「気にしないでください。母には・・・」
    「金曜日の夜東京に戻る。土曜日空けておいてくれ」
    「・・・?はい、わかりました」
    「君の母君に会う前に私の実家に来てほしい。本来なら先に君の家に行くべきなんだろうが・・・」
    「・・・・!」

    電話の向こうで圭吾を呼ぶ声がして、圭吾が北京語で何か返事をする。

    「土曜日、10時に迎えに行く」

    そう言って電話を切ってしまった。

    「実家にって・・・」

    由加子の心臓がドキドキと鳴る。

    圭吾から、由加子の母に会うという話が出て、尚且つ自分の家に来てほしいと言われ、予想外の展開に
    由加子はうろたえた。

    結婚の文字が頭に浮かぶ。

    (どういうことだろ・・・そういうことなのかしら・・・・)

    お付き合いしているというただの挨拶かもしれない。由加子は圭吾の意図が掴めず、頭を悩ませた。

    圭吾の両親は既に亡くなっているが、実家に来てほしいというからには誰かに会わせたいのだろう。

    圭吾の意図はどうなのかわからなかったが、とにかく圭吾の実家に行くのだ。
    由加子は慌ててクローゼットを開いて、着ていく服を探した。



    土曜日。

    結局、由加子は自分が持っている服の中で一番高級な白いスーツと控えめなアクセサリーを身に着けていた。

    圭吾は黒のパンツにグレーのブルゾンというラフな井出達だった。

    「あの・・・こんな格好で良かったでしょうか?」

    圭吾がじろじろと由加子を見るので心配して尋ねる。

    「ああ、大丈夫だ」

    圭吾の新しい車である白のポルシェに乗り込む。
    緊張して口数が少ない由加子をチラと見つめた。信号が赤に変わると由加子を引き寄せ深くキスした。

    「んん・・・・!」

    突然のキスに由加子は驚き、通行人に見られると恥ずかしがった。
    しかし、圭吾はやめるどころか舌を差し込み、由加子の舌を捕らえてそれを丹念に味わった。

    信号が青になる。

    圭吾は車を発進させるが、再び信号で止まると由加子を引き寄せキスした。
    上海に行っていたのもあって、二人で会うのは久しぶりだった。

    圭吾は何度してもし足りないといった様子で、由加子に何度もキスをした。
    情熱的なキスに、由加子の頬はピンク色に染まり、瞳が潤みだす。

    「・・・予定変更だ」

    圭吾はそう呟くと、方角を変えて車を走らせた。
    車は世田谷区内の住宅地を通り、古ぼけた鉄柵で囲われている林の前で止まった。
    木々はどう見ても手入れされておらず、門も錆びていた。

    圭吾は車を降りて門を開け、再び車に乗り門の中に入った。
    生い茂った木々の間をゆっくりと進むと、崩れたレンガが転がっていた。かつては家が建っていたと
    思われる跡がそこにあった。

    その横には池が広がり、雑草や花々が乱雑に生えていた。

    「ここは・・・?」

    由加子は車を降りて尋ねた。

    「ずっと昔祖父が使っていた屋敷だ。祖父が死んでから父は手入れすることなくほったらかしにしていたんだ。私もずっと知らなかった。父が死んで初めてこの場所を知ったんだ」

    これだけ広い土地を手付かずにしているとは何てもったいない話だろうと由加子は思った。

    ぐるりと背の高い木で覆われ、近隣の様子が全くわからない。まわりが住宅地とは思えないほど静かだった。

    圭吾が由加子を背後から抱きすくめ、首筋を軽く噛んだ。

    「・・・・っ!」

    スーツの上着を脱がし、車のボンネットの上に乗せる。
    薄手のニットを捲り上げ、両手で由加子の胸をやんわりと揉む。

    由加子の乳首は既にコリコリと硬く立っており、ブラの上からでもそれがわかった。
    圭吾がブラの上から軽く摘み、耳たぶを優しく噛んだ。

    「あ・・・・」

    背筋にゾクゾクと快感が走る。


    クリクリ・・・

    圭吾がブラを下にずらすと、由加子の形の良い胸がプルンと揺れて飛び出した。
    手触りを楽しむように、圭吾は手の平で撫でたり、長い指でガッシリと強めに揉んだりした。

    再び指で両方の乳首を摘む。
    コリコリと摘まれると、由加子は溜まらず背中を反らせた。

    「あん・・・!」

    圭吾の右手が下へと移動する。
    スカートはすっかり捲りあがり、ストッキングのショーツも丸見えだった。

    圭吾の手が迷わずショーツの中に入り込む。

    クチュ・・・

    「あ!あんんッ!!」

    車での執拗なキスを受けている時から、由加子のそこはたっぷりと潤っていた。
    圭吾の大きな手が、ショーツの下で蠢く様がいやらしく、由加子は興奮していた。

    圭吾の中指がビンビンに勃ったクリトリスに触れる。

    「あ・は・・・ん!」

    クチュクチュ・・・

    ショーツとストッキングが邪魔して、圭吾の指の動きが覚束なくなる。
    由加子は焦れて、自分からストッキングとショーツをずらした。

    圭吾がクスと笑って意地悪そうに言った。

    「我慢できない?」
    「・・・はい・・・」
    「じゃあ、ここは自分で触ってごらん」
    「え・・・?」

    圭吾はそういうと二本の長い指をヌヌ・・・と由加子のしっとりぬれた割れ目の奥に差し込んだ。

    「は・・・う・・・ん・・・!」

    グッチャグッチャと音がする。
    指がぐるんぐるんと中をかき回す。由加子は小さく呻いた。

    「ほら、触って」


    圭吾がクリトリスを自分で触れと由加子に促す。
    由加子は恥ずかしがって手を出すことができなかったが、圭吾が割れ目をムニ・・・と開いてクリトリスの
    包皮をめくり、綺麗なピンク色の真珠が見えると、欲望に負けて自分の指でそれを撫で始めた。

    「あ!はん!!あ・あ・あ・・・・ッ!!」

    ニュルニュル・・・クリュクリュ・・・

    マニキュアが綺麗に塗られた細く白い指が、ピンク色のクリトリスの上をゆっくりと移動する。
    同時に圭吾の指がぬらぬらと出たり入ったりする。
    途端に由加子の奥から愛液が溢れ出し、内ももを伝った。

    「気持ちいい?」
    「あ!あ!あ・・・ッ!気持ち、いいです・・・!・・・・ああンッ!!」

    とうとう由加子は自分でクリの皮をめくり、夢中でそれを撫で始めた。
    圭吾が由加子の左足をぐいと持ち上げ、由加子を自分にもたれ掛けさせながら指をグシュグシュ!と挿入した。

    青空の下でセックスするなど初めてだった。
    優しい風が由加子の体を撫でる。

    外から中は見えないだろうが、それでも誰かに見られたら・・・と思うと、いつも以上に興奮した。

    由加子のクリトリスを弄る指が早くなる。

    「あッッ!圭吾さん・・・!!私・・・・ッッ!!」

    イキそうになる寸前で、圭吾は由加子の体を持ち上げ、車のボンネットに寄りかからせた。
    由加子に自分の片足をあげさせ、自分は地面に膝をつき、由加子の割れ目に顔を近づける。
    イキてくてうずうずしている、由加子のクリトリスに吸い付く。

    「は・うんッ!!」

    チュウと吸ったり、レロレロと舌先で舐めたりを繰り返し、指をヌチャヌチャと出し入れする。

    由加子は堪らず仰け反り、ボンネットの上に上半身を倒した。

    「ああんッ!だめえッ!!圭吾さ・・・!アッ!アアアッッッ!〜〜〜ッッ!!」

    由加子はつま先にぎゅっと力を入れ、足をピンと伸ばすと、頂点に登りつめた。
    ボンネットの上で体がピクンピクンと弾ける。

    「あ・・・」

    ヌプ・・・と圭吾がヒクついた由加子のそこから指を抜く。

    圭吾が覆いかぶさり、由加子にキスする。

    チュ・・・チュク・・・・

    まだ先ほど達した余韻が強く体に残っていた。
    圭吾がグ・・・とペニスをあてる。それは硬く張り詰め、由加子は早く入れて!と心の中で叫んだ。

    ズヌル・・・・

    「・・・・ッ!?あ・・・!なんか・・・」

    圭吾がゆっくりと腰を動かす。
    由加子はいつもと自分の体の様子が違うと感じ取った。
    圭吾が出し入れする度に体がビクンと痙攣したように震える。

    「待って・・・!なんか・・・私・・・。あッ!だめ、動かないで・・・ッ!!」

    由加子の言葉が届いてないかのように、圭吾は無視して腰を動かし始めた。

    「だめッ!!ああんッ!!あ〜〜ッ!ああーー〜〜ッッ!!」

    由加子の中がぎゅううっと圭吾を締め付ける。
    由加子は全身をガクンガクン!と揺らすと、絶頂を迎えた。
    圭吾が入ってからまだ1分も経っていなかった。

    圭吾が動かず射精を耐える。

    由加子は涙目で圭吾を見上げた。

    「はぁ・・・はぁ・・・。なんか・・・私、変です・・・」

    そんな由加子を圭吾は愛しそうに見つめて微笑んだ。
    圭吾の向こう側に青空が広がる。

    由加子の足を方に担いで、再び動き始める。

    「はぅ・・・・!!あ!あン!あ〜〜〜・・・・ッ!」

    由加子は連続でイキまくった。
    圭吾は決して早く動いているわけではなかったが、すぐに快楽の波が押し寄せ、飲み込まれてしまうのだった。

    由加子は怖くなって涙をポロポロこぼした。
    圭吾が濡れた頬にキスして囁く。

    「大丈夫・・・」

    圭吾はペニスを挿入して動かず、由加子のクリトリスを指で撫で始めた。

    クリュクリュ・・・

    「あ・はん!!だめぇ・・・!!」

    由加子の頭が朦朧としてくる。

    (だめえ・・・!気持ちよすぎる・・・・!!)


    圭吾の指使いは絶妙な優しさで、由加子は今日一番の深いエクスタシーが向かってくるのを感じた。

    それを察してか、圭吾が動き出す。

    「あッ!ああッ!!圭吾さん!!私・・・もう・・・・ッ!!」

    グシュ!グシュ!!と愛液が飛び散る。

    クリと中からの両方の快感が全身を貫く。

    「あッ!あッ!あッ!アアーー〜〜ッッ!ーーーーッッ!!」

    由加子は悲鳴を上げて絶頂を迎えた。
    中がキュウキュウと締まり、圭吾が射精する。

    圭吾を咥えたままの由加子のそこはヒクヒクしており、由加子の身体はしばらく痙攣したように跳ねた。

    「あ・・・は・あ・・・ぅ・・・」

    圭吾がぐったりと脱力した由加子の涙を拭き、優しくキスする。
    由加子は恥ずかしくなり、圭吾から視線を外して言った。

    「すみません・・・。なんか、私ばっかり、何度も・・・」

    圭吾が優しく笑う。

    「あんな君、初めてみたな」

    由加子は恥ずかしさで、か〜と顔を赤くした。

    「すみません!自分でもわけわからなくなっちゃって・・・」
    「なんで謝るんだ。可愛いかったよ。本当ならまだまだ続けたいくらいだ」

    圭吾の言葉に由加子は益々恥ずかしくなって、急いで身支度を整えた。

    再び車を走らせるが、圭吾の’信号待ちキス’はまだ続いた。
    先ほどより情熱的だといっても良かった。

    圭吾の目が優しい。
    由加子はこうして愛してくれる圭吾と一緒にいられれば、どんな形でもいいのかもしれないと思った。


    予定より遅れて島谷邸に到着する。由加子は化粧を軽く直し、車を降りた。

    「すごい・・・」

    アーチ状の門にはつる薔薇で覆われ、外壁から溢れるようにして薔薇が垂れ下がっている。
    更に門をくぐると庭中色とりどりの薔薇が咲き誇っていた。

    大きな洋館のまわりは綺麗な芝生が敷き詰められ、庭には薔薇だけでなく様々な花が植えられ、きちんと
    手入れされていた。

    「坊っちゃん、お帰りなさいませ。お久しぶりでございます」

    一人の背の低い腰の曲がった老人が二人に近づいてきた。

    「じい。元気そうだな。今日はじいに紹介したい人を連れてきた」

    じいと呼ばれた老人が由加子を見てニッコリと微笑む。しわだらけで、笑うと目がなくなる、とても
    好感の持てる顔だった。

    「ようこそお出でくださいました。私はこの館の管理を任されております、真田と申します。」
    「初めまして。木下由加子と申します。宜しくお願い致します」

    由加子は丁寧にお辞儀して挨拶をした。
    真田は嬉しそうに頷き、どうぞどうぞと言って館の中へ入るよう促した。

    館の中も薔薇がたくさん飾られていた。
    通された部屋には既にお茶とケーキが用意されていた。大きな窓から庭が見え、明るい光が差し込む。

    豪華なジョージアン様式の家具が並び、薔薇が良く似合う部屋だった。
    由加子は緊張してソファに座る。

    ソファのすぐ横にあった重厚な作りのチェストの上に、1枚の写真があった。
    幼少の頃の圭吾を前にして、圭吾の両親が後ろに並んで立っている。

    髭をはやした厳しい目つきの父親と、黒目がちな瞳の柔らかい表情の母親・・・。
    圭吾の表情も硬かった。

    「坊ちゃん、お体の具合はいかがです?」
    「体?・・・ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな」

    真田は圭吾が胃潰瘍で入院したことを心配しているのだった。

    「心配かけるもなにも、退院してから連絡してきたでしょう。なんですぐに連絡してくれなかったんです」

    真田が少し怒り口調で言う。

    「必要以上に騒ぐじゃないか。それに、私が倒れたなんて聞いたら、じいの心臓がもたないだろ?」
    「まったく・・・。由加子さん、今度何かあったら、あなたから私にご連絡くださいね」
    「言う通りにする必要はないよ。じいは昔っから過保護なんだ」

    そう言って圭吾は笑った。
    今まで見たことのない無邪気な圭吾の笑顔に、由加子は嬉しくて微笑んだ。

    きっと生まれてからずっと真田に世話になっているのであろう。心を許していることが伝わってくる。


    真田が紅茶を淹れてくれた。あまりにおいしかったので、どこで手に入れたのか、どうやって淹れたら
    美味しくなるのかと尋ねた。二人で紅茶の話で盛り上がる。

    「さて・・・私はちょっと探すものがあるから失礼するよ。君はじいに家を案内してもらうといい」

    そう言って圭吾は席を立って部屋を出ていった。

    「由加子さん。坊ちゃんが入院されている間、ずっとお世話をしてくださったようで。
    ありがとうございました」

    真田が深々と頭を下げる。

    「とんでもないです。私がもっと早く圭吾さんの体調の悪さに気がついていればよかったのに・・・。」

    遠慮がちに答える由加子を見て、真田がニッコリ笑う。

    「庭に行きませんか?今は薔薇がとても綺麗な時なんです」

    由加子は、喜んでといって席を立った。

    庭に出ると、薔薇の多さに圧倒される。様々な種類の薔薇が、綺麗に並んでいた。

    「素敵・・・」
    「およそ500種類。1500株ほどあります」
    「これだけお手入れされるのは大変でしょう?」
    「昔は私一人で手入れしていましたが、さすがに今は頼んでやってもらっています。」

    由加子はぐるりと庭を見渡した。深呼吸して薔薇の香りを吸い込む。

    「薔薇が本当にお好きでないと、ここまではできませんね」

    由加子が何気なく言うと、真田は声をあげて笑った。

    「もちろん私も薔薇は好きですよ。しかし、これは奥様・・・坊ちゃんのお母様の形見です。
    枯らせるわけにはまいりませんよ」
    「圭吾さんの・・・お母様の薔薇なんですね」

    真田はうんうんと頷き、何かを思い出すように遠くを見つめた。

    「それはそれはこの薔薇たちを愛してらっしゃいましたよ。お亡くなりになる寸前まで、薔薇のことを
    気になさってました。」
    「そうなんですか・・・。薔薇を愛してらっしゃったんですね・・・」

    由加子は薔薇の世話をする圭吾の母の姿を想った。

    厳しい夫・・・。徹底した教育を受ける息子に充分愛情を与えられる状況ではなかったに違いなかった。
    何より、隠し子がいたことのショックをこの薔薇たちが癒してくれていたのだろう。

    「・・・真田さんはいつからこちらにおられるんですか?」
    「私は、先代がお生まれになった頃にこの館に来たのです。戦争で家族を失って彷徨っていた私を先代の
    お父様、つまり坊ちゃんのお祖父様が拾ってくださったのです」

    由加子は圭吾が持っている祖父のライターを思い出した。

    「そうでしたか・・・。お優しい方だったのですね」
    「はい。口数は多くありませんでしたが、穏やかでとてもお優しいお方でしたよ」

    (それなら何故圭吾さんには厳しくしたんだろう・・・)

    「その代わり、先代のお母様は特別厳しいお方でした。由緒ある家系のご出身でしたから」

    由加子の考えを察してか、真田が話始めた。

    「行儀、作法、礼儀・・・。徹底的に厳しかった。先代は母親としての愛情を受けてお育ちにならなかったと
    感じていらっしゃいました。今思うと、それも愛情だったのでしょうが・・・」

    圭吾が父親に厳しく育てられたのはそのためだったのだ。
    由加子はわずかに頷いて真田の話の続きを聞いた。

    「先代も同じように坊ちゃんを育てられました。会社を継がせるということもあったため、より一層
    厳しかったように思います。特に『競争する』ことに関してはとても厳しかった」
    「競争?」
    「はい。中学生まではヨーロッパにいらっしゃったので私は存じ上げていませんが、高校生の時に全国の
    模擬試験ていうのがあるでしょう。あれで2位を取ったんです。学のない私なんかにしてみたら、全国で
    2位なんて素晴らしい成績だと思うんですが、先代は1位でないことが許せなかった。坊ちゃんのことを
    これでもかというほどに殴ったんです。顔は殴りません。体をね、何度も何度も・・・」

    由加子は圭吾の父の教育方針にゾッとした。そこまで厳しいとは思っていなかった。
    圭吾が前に話してくれたことを思い出す。

    『優秀で当然、それ以上の人間になれ』

    圭吾は並々ならぬ努力をしてきたのだ。様々に葛藤しながら。
    由加子はなんだか泣きそうになって、うつむいた。
    するとレンゲのような小さな花をつけた鉢植えが目に入った。

    明らかに他の薔薇たちとは違う雰囲気で、ひっそりとそこにあった。

    「ああ、それは『八女津姫』といって、レンゲローズと言われている品種です。それも薔薇なんですよ」
    「とても可愛いらしい薔薇ですね」
    「この薔薇はね、由加子さん、奥様が坊ちゃんの妹さんのために育てていた薔薇なんです。妹さんのことは
    ご存知ですね?」

    妹、という言葉にドキリとした。
    圭吾の言っていた、父が愛人との間に出来たという女の子のことだろう。

    由加子は黙って頷いた。

    「奥様は、それはそれはショックを受けていましたよ。隠し子がいたことではありません。その子を先代が
    『普通の子』として可愛いがっていたことにショックを受けていたんです」
    「でも・・・それなら何故妹さんのためにこの薔薇を育てていらしたのかしら・・・」

    真田はレンゲローズの鉢を太陽の光を浴びるように少しずらした。

    「子供には何の罪もない。そう思っていたんです。いえ、そう思わないと気持ちの整理がつかなかったのかも
    しれません。いつか渡したいのだとおっしゃってましたが、結局渡すことなくお亡くなりになりました・・・」

    由加子はレンゲローズを見つめた。

    圭吾の妹・・・。母の想い・・・。

    他のどの薔薇よりも、この薔薇に愛情を注いでいたような気がした。

    「沢山話していまいましたね。そろそろ御夕食の支度をしましょう」
    「真田さん、お話していただいてありがとうございました」

    由加子は頭を下げ、心から感謝した。圭吾のことを深く知れた気がしたからだ。

    「薔薇のお世話の仕方、教えてくださいね」

    由加子がそういうと、真田は満面の笑みを浮かべて頷いた。

    「あなたなら安心してお任せできますよ。奥様もお喜びになられます」

    圭吾が窓から二人を眺めていたことに気がつく。
    この上なく優しい眼差しだった。




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